医療法人とMS法人の役員兼務におけるルールについて


同一人物が医療法人とMS法人の役員を兼務することについては、もともと許可されていませんでした。
しかし、数年前にルールが明確になり、現在は特定の要件をクリアしている場合のみ、兼務が認められています。
今回は、こちらのルールの具体的な内容を中心に解説したいと思います。

目次

役員兼務が認められる要件について

医療法人における管理者、MS法人における役員を同じ人物が務めることについては、厚生労働省が発表する“医療機関の開設者の確認および非営利性の確認について”で禁止されています。
こちらは、MS法人が実質的に医療法人を支配することにより、クリニック等の医療施設を営利目的として開設することと同様になることを防ぐためです。
つまり、適切なガバナンスと透明性を確保しながら、運営することが求められるということです。
その他、美容クリニックなどの個人開業医、医療法人の両方において、管理者と役員を同じ人物が務めることも認められていません。
また、医療法人の院長先生の配偶者が医療法人の役員である場合は、たとえクリニックで勤務していなかったとしても、MS法人の役員を務められないことになっています。
一方、医療法人の院長先生における配偶者が医療法人の役員ではなく、なおかつクリニックで勤務しているという場合は、配偶者がMS法人の役員になることが可能です。
こちらのケースは、配偶者が医療法人の役員ではないため、正確にはMS法人との役員兼務には該当しないかもしれませんが、とても近い形式であるのは確かです。
ちなみに、医療法人の非営利性に影響を与えないことや、取引額が少額といったいくつかの要件を満たすことで、先ほど役員兼務ができないという風に解説した人物でも、MS法人の役員を務めることができる場合があります。
具体的には、以下に該当する場合に、役員兼務を例外として取り扱うことができます。

・MS法人から物品の購入もしくは賃貸または役務の提供の商取引がある場合で、医療法人の代表者ではないこと、MS法人の規模が小さいことにより、役員を第三者に変更することが直ちには困難であること、契約の内容が妥当であると認められることのいずれも満たす場合
・MS法人から医療法人が必要とする土地または建物を賃借する商取引がある場合で、MS法人の規模が小さいことにより、役員を第三者に変更することが直ちには困難であること、契約の内容が妥当であると認められることのいずれも満たす場合
(具体的な解釈、運用に関しては、各管轄の自治体によって異なる場合がある)

少し複雑なルールではありますが、今後美容クリニックを開業する方はぜひこの機会に覚えておいてください。

取引報告制度について

医療法人からMS法人へ利益が移転されることを防止する観点から、一定の取引額を超える場合においては、MS法人等の関係事業者との取引に関する報告書を提出しなければいけません。
ガバナンスの観点からは、報告の対象となる取引の相手が誰かという点が重要となります。
また、報告の対象となる取引の相手は、その相手方が法人の場合、以下が該当します。

①当該医療法人の役員またはその近親者が代表者である法人
②当該医療法人の役員またはその近親者が株主総会、社員総会、評議員会、取締役会、理事会の議決権の過半数を占めている法人
③他の法人の役員が当該医療法人の社員総会、評議員会、理事会の議決権の過半数を占めている場合の他の法人
④ ②の法人の役員が他の法人(当該医療法人を除く)の株主総会、社員総会、評議員会、取締役会、理事会の議決権の過半数を占めている場合の他の法人

なお、取引の相手方が個人の場合でも、当該医療法人の役員または近親者(配偶者または二親等内の親族)は対象です。

その他の兼務に関するルールについて

先ほどは、医療法人とMS法人の役員を同一人物が兼務することのルールについて見てきましたが、ここからはその他の兼務に関するルールにも触れてみましょう。
具体的には、株主または社員における兼務についてです。
結論からいうと、これらの兼務に関しては、一切禁止されていません。
つまり、医療法人の株主は、MS法人の株主になることができますし、医療法人の社員は、MS法人の社員にも問題なくなることができるということです。
ちなみに、医療法人の院長先生または理事長がMS法人の株主になったり、MS法人の代表が医療法人に社員として属したりすることも可能です。
このあたりのルールも、美容クリニックの開業を目指している方にとっては、いずれ必要になる知識だと言えます。

“医療機関の開設者の確認および非営利性の確認について”に記載されるルール

医療法人とMS法人の役員兼務に関するルールが記載されているのは、“医療機関の開設者の確認および非営利性の確認について”というものです。
では、次はこちらに記載されているその他のルールについて、気になるものをいくつかピックアップしてみましょう。
今回のテーマである医療法人、MS法人の役員兼務に直接は関係ない項目も多いですが、クリニックや医療法人の開設に関することをメインに記載しているため、美容クリニックを開業しようとする方は、あわせて理解しておくことをおすすめします。

・労働条件の権限について
・資金計画について
・非営利性に関する確認事項について

労働条件の権限について

医療法人やクリニックを開設する方は、当該医療機関の人事権(職員の任免権)および職員の基本的な労働条件の決定権などの権限を掌握していなければいけません。
ただし、当該医療機関の幹部職員に対し、定款や内部規定等の規定により、権限を委任している場合は、この限りではありません。
つまり、必ずしも院長先生が権限を持つ必要はないということです。

資金計画について

クリニックの開設や経営に関する資金計画については、以下の内容を審査することが求められています。

・収入見込みの根拠となる患者数等の見込みが過大でないこと
・支出見込みの根拠となる人件費等の見積もりが適正であること
・必要な自己資本が確保されていることを金融機関等の残高証明で確認できること
・借入金がある場合は、その借入が確実なものであることを金融機関等の融資証明書等によって確認できること
・第三者から資金の提供がある場合は、医療機関の開設や経営に関与するおそれがないこと

ちなみに、資金計画は、医療法に基づく維持の方法を確認するものであり、“開設後2年間の収支見込み”等の資料とされていて、クリニック等を開設する場合においても、同資料の提出することが望ましいです。

非営利性に関する確認事項について

クリニックの非営利性に関する確認事項については、主に以下のことが記載されています。

・クリニック等の開設主体が営利を目的とする法人でないこと(ただし、もっぱら当該法人の職員の福利厚生を目的する場合はこの限りではない)
・クリニック等の運営上生じる剰余金を役職員や第三者に配分しないこと
・医療法人の場合は、法令により認められているものを除き、収益事業を経営していないこと
・MS法人などの営利法人が、福利厚生を目的とするクリニック等の開設許可を行う場合および医師でない個人に対しクリニック等の開設許可を行う場合は、事前に厚生労働省まで協議すること

まとめ

医療法人の役員は、例外を除いてMS法人の役員を兼務することはできず、医療法人の役員が、MS法人の従業員を兼務することも認められていません。
ただし、医療法人とMS法人の株主兼務、社員兼務については認められています。
上記の他、取引報告制度などの関連するすべてのルールについて、本記事で理解していただけると幸いです。


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