医療法人の院長が退職金受取時に活用できる“みなし退職”


医療法人の院長先生は、退職慰労金や死亡退職慰労金、弔慰金や特別功労金など、退職金以外にもさまざまな金銭を受け取ることができます。
また、これらの金額が適正であれば損金算入することができ、大きな節税に繋がります。
今回解説するのは、医療法人の院長が退職金受取時に活用できる“みなし退職”についてです。

目次

みなし退職の概要

みなし退職とは、役員の職務の責任を変更したときなどに実質退職したと認められ、その際に職務の責任を変更した人物に対して、金銭(みなし退職金)を支給できる制度のことを言います。
つまり、医療法人の院長先生は、みなし退職を活用することで、退職しなくても退職金を受け取ることができるということです。
もちろん、受け取った金銭は、通常の退職金等と同じく損金算入することが可能です。
医療法人では、思いの外収益が上がることによって、早急な節税対策を余儀なくされるケースがあります。
みなし退職を活用して、院長先生がみなし退職金を受け取ることができれば、そのようなケースにも柔軟に対応できます。

みなし退職を活用するための要件について

医療法人の院長先生が活用すべきみなし退職は、以下のような要件をクリアすることで活用できます。

 常勤理事から非常勤理事へ職務の責任を変更した場合(実質的な代表権、経営権がある場合は除く)
 理事から監査へ職務の責任を変更した場合(実質的な経営権がある場合は除く)
 職務の責任を変更した後、報酬が概ね50%以上減少した場合

簡単にいうと、退職していない状況でも、医療法人内における地位が下がり、なおかつ権限や報酬の多くを失った場合に、実質退職したという扱いになります。
医療法人の院長先生は、実際退職していなくても、上記の要件をクリアすれば退職金の可能であることを把握しておきましょう。

実質的な代表権、経営権とは?

先ほど解説したみなし退職の利用要件の中で、“実質的な代表権、経営権がある場合は除く”という文言がありました。
こちらは具体的にどういうことなのかというと、要は形式上、医療法人の経営において主要な地位でないとしても、口を出している場合はみなし退職が認められないということを意味しています。
一方で、医療法人の院長先生は、以下のような行動を取ることで、実質的な代表権、経営権ともに持っていないことが証明されやすくなります。

・院長時代の名刺を交換する
・ホームページ、医院案内等に記載された組織図、本人のコメントを削除する
・議事録、稟議書、報告書等への氏名の記載、押印をしない
・新院長就任の祝賀会の開催、取引先への院長変更の通知、院内報の記事を保存する
・職務の責任変更後の給与は適正な額で支給する
・医療法人への出社頻度を少なめにする
・融資などに伴う銀行印との面談、リース会社の担当者との会合には出席しない
・医師としてのみ医院経営や病院経営に関与する
・顧問税理士との面談をしない
・医療法人の理事会には参加しない
・小切手帳、手形帳、金庫の鍵などの管理はしない など

ちなみに、上記のような行動を取らず、院長という立場を退いた後も実質的な代表権、経営権を持ったまま、院長先生が医療法人で勤務し続けたとします。
このような状況でも、税務署などに情報が漏れることはないように思われがちですが、実際はそうでもありません。
例えば、税務調査の際、税務署が銀行に反面調査に入った場合、銀行では必ず報告書が作成されているため、融資の面談などに院長先生が同席していたことはすぐに発覚してしまいます。
また、税務調査では、医療法人に所属する看護師、窓口の従業員への聞き取り調査が実施されることもあります。
このとき、事情をよく把握していない看護師や従業員が、「院長先生は以前とまったく変わらず指導しています」などと回答してしまうと、経営に大きく関わっていると判断され、税務否認の対象になるおそれがあります。

みなし退職を活用する際の注意点について

医療法人の院長先生がみなし退職を活用する際に注意すべき点は、通常の退職金と同じく、資金の確保を忘れないという点です。
みなし退職金に充てる資金の確保は、医療法人において損金算入ができる生命保険に加入する方法で行うのが効果的です。
また、みなし退職金の金額は、不相当に高額な金額にすることができません。
こちらも、通常の退職金や役員報酬におけるルールと同様であるため、活用前に必ず把握しておきましょう。
一般的に、みなし退職金の金額は、最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率(+功績加算金)という式で算出されます。
功績倍率は、通常1.0~3.0の範囲で設定され、資本金や従業員数などによって異なります。
功労加算金については、30%の範囲内で設定されます。
ただし、上記のみなし退職金の損金算入限度額は、あくまで一般的な考え方です。
院長先生の在任中、大きく役員報酬が変動したとき、最終報酬月額のみが不自然に高額なときなどは、上記の計算式にしたがっていても否認されることがあります。
さらに、合理的な退職金額を算出する際には、以下の3つのポイントも押さえておかなければいけません。

・最終報酬月額は同一業種、同一規模、同一エリアを基準にする
・役員報酬の金額が高い場合、功績倍率は2倍でも否認されることがある
・功労加算金には、医療法人を創業した功労、業績を拡大した功労など、事実として業績発展に寄与した実績の証明が必要

みなし退職金を生命保険で確保することのメリット

みなし退職金における資金の確保は、生命保険を活用して行うのが効果的という話をしました。
こちらの方法の具体的なメリットは、まず赤字決算にならないよう、院長先生のみなし退職金を準備できることが挙げられます。
何も対策を取っていない場合、みなし退職金は損金であるため、損金過多から赤字決算につながる可能性があります。
また、予期しない経済環境の変化に対応できることも、生命保険でみなし退職金を確保することのメリットです。
例えば、営業損失が大きくなった場合などに、補填する役割で活用することが可能です。
その他、生命保険は院長先生に万が一のことがあった場合に、家族の生活保障、従業員の給与保障になります。
保険加入後すぐに相続が発生したとしても、医療法人の財務内容を悪化させることなく、高額の現金を準備することができます。
特に、新設の医療法人など、資金に余力がないうちは、院長先生の家族や従業員の生活を守るため、生命補償や病気入院保障などを重視した保険設計も可能です。

内部留保によるみなし退職金の確保について

医療法人は、生命保険だけでなく、内部留保をみなし退職金の原資とすることも可能です。
ただし、こちらは持分あり医療法人にのみ認められている方法です。
現在、新たに設立することができる医療法人は、持分なし医療法人のみであり、こちらは解散時に残存財産(内部留保)を分配することができません。
ちなみに、持分あり医療法人の場合、持分対策の1つとして、内部留保を下げることが挙げられます。
こちらの場合も、みなし退職金の原資に内部留保を充てることが考えられます。

まとめ

ここまで、医療法人の院長先生が活用すべきみなし退職について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
みなし退職は医療法人の収益が思いの外増加したときなど、早急に節税対策をしなければいけない状況のときに損金算入をすることで、大きな効果を発揮します。
ただし、院長先生は活用するにあたって、要件の確認やみなし退職金に充てる資金の確保について、事前に知識を得ておかなければいけません。


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