美容クリニック開業に伴い、建物を建築する際は、構造や設備等の決定または設置について、建築基準法で定められたルールを守らなければいけません。
また、こちらのルールは多岐にわたるため、今回は特に注目したいルールについて、いくつかピックアップして解説します。
気になる関係者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
建築基準法の概要
建築基準法は、建物を建築する際に必ず守らなければいけない法律です。
敷地や構造、設備、用途といった基準が定められていて、都市計画法や消防法など、関連する法律も同じように遵守しなければいけません。
建築基準法について、美容クリニックを開業する方が完全に理解することは非常に難しいです。
また、建物の工事を行うのはあくまで建築会社等ですが、押さえるべきポイントを押さえておいて損はありません。
病院と診療所の違いについて
美容クリニックを含むクリニックは、病床数によって病院と診療所のいずれかに区分されます。
病床数の基準は19であり、19以上のベッドがあれば病院、それ以下の場合は診療所になります。
診療所に該当する美容クリニックであれば、どのような地域であっても建築することが可能です。
また、病床が0の場合も診療所ではありますが、建物の種類は特殊建築物ではなく、一般建築物に該当します。
ちなみに、特殊建築物とは、名前の通り居住用物件などとは違い、特殊な設備・構造になっている建築物のことを指しています。
具体的には、特殊な設備・構造を有し、なおかつ不特定多数の人物が利用する施設で、主に火災などの緊急事態における安全の確保、衛生的にも安心できる環境を整える必要がある施設のことをいいます。
安全のため、周囲の建物などに影響を与えないための防火設備や、避難が必要となった場合の通路の確保など、細かな基準がいくつも設けられています。
入院設備がある有床診療所に該当する場合で、なおかつベッドの数が19床以上であれば、そのクリニックは特殊建築物という扱いになります。
特殊建築物に該当する場合、定期調査や報告が必要となり、こちらは建築基準法だけでなく消防法にも当てはまります。
病室は耐火構造と床面積がポイント
建築基準法では、美容クリニックにおける病室について、地階または3階以上の階には設置できないというルールが定められています。
ただし、主要構造部を耐火構造にする場合は、3階以上の設置も認められます。
また、病室の床面積に関しては、患者さん1人につき6.4㎡以上を確保しなければいけません。
ちなみに、診療所の一般病床の場合、患者さん1人を入院させる病室を6.3㎡以上、複数人を入院させる病室を患者さん1人につき4.3㎡以上にすることが求められます。
その他、美容クリニックの開業時、病室づくりにおいて守らなければいけない建築基準法上のルールには、以下のようなものがあります。
・採光面積は病室の床面積の1/7以上確保しなければならない
・換気のための窓およびその他開口部の面積は、病室の床面積の1/20以上にしなければいけない(機械換気設備等の換気装置を設けている場合はこの限りではない)
・天井高は2.1m以上にしなければいけない
・階段室内に出入口のある病室を設けることは望ましくない など
階段はエレベーターの有無がポイント
美容クリニックにおいて、患者さんが使用する屋内の直通階段は、2階以上の階に病室を有する場合、2つ以上設けなければいけません。
ただし、患者さん用のエレベーターが設置されている場合、あるいは2階以上の各階における床面積の合計がそれぞれ50㎡以下(主要構造が耐火構造もしくは不燃材料で造られている場合は100㎡以下)の場合はこの限りではありません。
階段もしくは踊り場の幅についても、内法1.2m以上、蹴上0.2m以下、踏面0.24m以上など、細かい建築基準法のルールが存在します。
その他、美容クリニックの開業時、階段を設計する際に守らなければいけない建築基準法のルールには、主に以下のようなものが挙げられます。
・3階以上の階に病室がある場合は、避難階段を2つ以上設けなければならない(屋内直通階段の構造が、建築基準法の避難階段としての構造を持つ場合は、こちらの直通階段を避難階段の数に算入できる) など
廊下は両サイドに居室があるかどうか
美容クリニックの病室における廊下は幅1.8m以上で、両サイドに居室がある場合は、内法による測定で2.1m以上にしなければいけません。
また、診療所における病室に隣接しない廊下の場合は幅1.2m以上、両サイドに居室がある場合は1.6m以上に設計する必要があります。
ちなみに、ここでいう診療所には、無床診療所や一般病床9床以下の有床診療所は含まれていません。
美容クリニックの建築許可申請について
美容クリニックの開業に伴い、建物を新築または増築、修繕する場合などは、工事に着手する前に、建築許可申請を提出しなければいけません。
その上で、確認済証の交付を受ける必要があります。
こちらは、美容クリニックが避難、安全、構造、設備などそれぞれに関連した法律の規定に適合していることについて、確認を受けるものです。
原則として、法律に適合していれば発行されますが、もちろん適合していなければ交付を受けることができず、工事にも着工できません。
ちなみに、こちらは規模ではなく用途での申請となるため、ビルにテナントとして入居する場合、申請不要です。
建築許可以外の申請について
前述した建築許可申請以外でいうと、美容クリニック開業する際には診療所開設届も提出しなければいけません。
こちらは、美容クリニックの開業日から10日以内の提出が義務付けられているものです。
ただし、診療所開設届は、一度で受理されるケースが少ないため、できる限り早めに届け出ることが大切です。
ちなみに、一度で受理されるケースが少ない理由としては、内装や間取りなどが建築基準法の基準を満たしておらず、細かい指導が入るケースが多いことが挙げられます。
建築基準法の12条点検について
美容クリニックの開業時には、建築基準法を遵守して病室や階段、廊下を設計しなければいけませんが、開業後にも守らなければいけないルールがあります。
それが、建築基準法の12条点検です。
こちらは、建築物の安全性を確保することを目的とした制度であり、美容クリニックを含む病院やデパート、ホテルといった不特定多数の人物が利用する建物が対象となり得ます。
建築基準法第12条に規定されているのが名前の由来であり、美容クリニックの場合、具体的には以下の規模に該当するものが対象です。
・3階以上の階にあるもの
・2階以上の床面積が300㎡以上のもの
・地階にあるもの
また、12条点検の点検項目は以下の通りです。
カテゴリ |
点検項目 |
特定建築物 |
・敷地および地盤 ・建物外部 ・屋上および屋根 ・建物内部 ・避難施設、非常用侵入口 |
建築設備 |
・給排水設備 ・換気設備 ・非常照明設備 ・排煙設備 |
防火設備 |
・防火扉 ・防火シャッター ・耐火クロススクリーン ・ドレンチャーその他の水幕を形成する防火設備 |
昇降機 |
・エレベーター ・エスカレーター ・小荷物専用昇降機 ・遊戯施設等 |
まとめ
ここまで、美容クリニックに関する建築基準法のルールについてピックアップして解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
前述したルールを遵守した建物でなければ、当然美容クリニックは開業できません。
また、建築基準法以外にも、医療法やバリアフリー法、消防法や地方公共団体条例など、守らなければいけないルールは数多くあるため、開業前にはある程度知識を身に付ける時間が必要となります。