クリニックが雇用する医師は、大きく常勤医と嘱託医の2つに分かれます。
どちらも同じ医師ではありますが、契約形態などは異なり、それぞれがクリニックにもたらすメリット・デメリットにも違いがあります。
ここからは、具体的にどのような違いがあるのかを中心に解説したいと思います。
目次
常勤医、嘱託医の違い
常勤医と嘱託医を分ける要素はいくつかありますが、もっとも大きな違いはやはり契約形態です。
勤務先のクリニックが正職員として雇用し、フルタイムで働く医師は、常勤医という扱いになります。
一方、嘱託医は基本的に非常勤を条件に契約する医師であり、定期非常勤医やアルバイト医などと呼ばれることもあります。
それぞれの勤務時間についてもう少し詳しく解説すると、常勤医は1日8時間以上、週4日以上、週32時間以上、同じクリニックで勤務します。
嘱託医は、上記未満の勤務時間で雇用する医師であり、高齢化などを理由に一度退職した常勤医を、嘱託医として再雇用するケースも多く見られます。
ちなみに、労働基準法では、1日8時間以内、週40時間以内を法定労働時間と定めているため、通常の企業では、週40時間以上勤務する従業員を常勤者としています。
これに対し、クリニックの常勤医は前述の通り、週32時間以上勤務する医師を指していますが、通常企業の常勤者と8時間もの勤務時間差がある背景には、医師の働き方における常勤換算というルールが関係しています。
クリニックなどの医療機関には、“〇人以上の医師を配置しなければいけない”というルールがありますが、このときカウントされるのは、週32時間以上勤務している医師のみとなっています。
こちらが常勤換算という計算方法であり、当ルールでいう医師が週32時間以上勤務する医師と定義されていることから、常勤医=32時間以上勤務する医師という定義につながっています。
クリニック側から見た常勤医のメリット
クリニック側から見れば、常勤医は長時間院内において医療行為を行ってもらえる貴重な存在です。
勤務時間外であっても、担当患者の容態が急変した場合などは、対応してもらうことができます。
また、オンコール(待機時間)は休み扱いではありますが、他の医師に欠員が出た場合などには代診を依頼することができるのも、常勤医ならではのメリットと言えます。
クリニック側から見た常勤医のデメリット
クリニック側から見た常勤医は、強い責任感を持ち、緊急の場合でも対応してもらうことができる医師ですが、雇用するにあたってデメリットが生じることもあります。
まず、常勤医は正職員であるため、クリニックは福利厚生を充実させなければいけません。
例えば、社会保険の一部または全額負担、退職金、学会への参加費補助といった福利厚生は、厳しい環境で働く常勤医への正当な対価と言えますが、これらの費用はクリニックにとっての負担になることがあります。
また、常勤医の税金は源泉徴収であるため、クリニックは収入や費用をまとめ、複雑な税金の計算も行わなければいけません。
クリニック側から見た嘱託医のメリット
嘱託医は、常勤医と比べて勤務時間や日数が短いため、クリニックにおける福利厚生の負担はある程度軽減されます。
例えば、住宅手当や扶養手当などの手当に関しては、嘱託医に対してのみ支給しないことが可能です。
また、個人の嘱託医を雇用する場合、クリニックは常勤医と同じように源泉徴収を行わなければいけませんが、医療法人から派遣された勤務医と嘱託医として雇用する場合は扱いが異なります。
このような場合にクリニックが支払う対価は、嘱託医の給与ではなく医療法人の収入であるため、クリニックは源泉徴収を行う必要がありません。
その他、以前クリニックで勤務していた医師を嘱託医として再雇用する場合には、現役時代に培った豊富な知識や技術を落としこんでもらえるというメリットも生じます。
クリニック側から見た嘱託医のデメリット
嘱託医を雇用することで、常勤医と比べて福利厚生、源泉徴収などの負担が軽減できる可能性がありますが、常勤医のように緊急時の対応をしてもらうのが難しいですし、オンコールもありません。
また、嘱託医の契約は有期契約が多いですが、こちらの契約は法律上、期間途中に解消することが極めて困難です。
嘱託医の期間途中での雇用契約解消が認められているのは、クリニックが廃業するなどやむを得ない事由がある場合のみです。
そのため、嘱託医の勤務態度や内容に問題があったり、別の嘱託医や常勤医を雇用したかったりする場合でも、当初の契約期間が満了するまでは、基本的に雇用し続ける必要があります。
まとめ
ここまで、クリニック側から見た常勤医、嘱託医それぞれのメリット・デメリットを見てきましたが、いかがでしたでしょうか?
メリットばかりに注目して採用を決定してしまうと、クリニックの状況によっては経営が傾いたり、トラブルに発展したりする可能性があるため、注意しなければいけません。
また、新たに医師を採用する際には、既存の医師における意見も採り入れるべきです。