開業医が医師会加入時に利用できる“賠償責任保険”について


医師会に加入した開業医は、収入や広告など、さまざまな角度から恩恵を受けることができます。
そのうちの1つが、今回解説する“賠償責任保険”です。
こちらは、医師会が開業医に向けて提供する保険制度であり、大きなリスクヘッジとなるものです。
具体的にどのような制度なのか見てみましょう。

目次

賠償責任保険の概要

日本医師会の賠償責任保険は、会員の医療事故によって紛争が発生した場合に、賠償と紛争の解決を日本医師会、都道府県医師会、保険会社の3者がバックアップする制度です。
開業医が患者さん側から損害賠償請求を受けると、医師会に設置された医事紛争処理委員会において、保険適用が妥当かどうかの審査が実施されます。
その後、医学的側面から事実関係を調査し、妥当性が認められた場合には、賠償責任審査会で責任の有無とその金額を判定します。
そこで導き出された方針に従い、開業医は患者さんとの間で問題の解決を図ります。
開業医は医療行為のスペシャリストですが、1人の人間です。
そのため、細心の注意を払っていても、医療事故が発生する可能性はゼロではありません。
医師会の賠償責任保険は、このような厳しい環境で医業に従事する開業医をサポートしてくれます。
ちなみに、開業医が加入できる賠償責任保険には、他にも病院賠償責任保険というものがありますが、こちらは医師会の賠償責任保険とはまったくの別物です。
病院賠償責任保険は、医師賠償責任保険と医療施設賠償責任保険の2つの保証を組み合わせたものであり、主に保険会社が取り扱っています。
また、医療施設賠償責任保険とは、クリニックなど医療施設の建物や設備の構造上の欠陥、管理の不備等の医療業務以外の業務の遂行に起因し、他人を死傷させてしまったり、他人の財物を損壊してしまったりした場合に、クリニックが被害者またはその遺族に対し、法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対し、保険金が支払われるというものです。

賠償責任保険の詳細

医師会の賠償責任保険は、日本医師会が契約者となる保険で、すべての対象会員は自動加入することができます。
一般的な保険商品のように、個別加入の手続きは必要ありません。
対象となるのは、以下の会員です。

・A①会員(病院、クリニックの開設者、管理者およびそれに準ずる会員)
・A②(B)会員(A①会員およびA②会員(C)以外の会員)
・A②(C)会員(医師会に基づく研修医)

対象となる医療事故は、医療行為によって生じた身体の障害について損害賠償を請求され、その請求額が100万円を超えるものです。
こちらを下回る少額の事例については、対象外となります。
また、損害賠償金の年間総支払限度額(最高限度額)に関しては、1事故につき1億円、保険期間中3億円です。

日医医賠責特約保険について

前述の通り、医師会の賠償責任保険は、開業医などのA会員が対象となるものです。
しかし、クリニックの開業医の中には、A会員以外の医師が起こした医療事故について、開業医、管理者としての賠償責任にも備えたいという方もいるかと思います。
そのような方におすすめなのが、日医医賠責特約保険です。
こちらは、日本医師会が提供する任意加入の保険で、高額賠償事例や法人(99床以下の法人立病院と法人立クリニック)の責任部分にも備えることが可能です。

医療事故の発生から保険金支払いまでの流れ

開業医が医師会の賠償責任保険に加入している場合に、医療事故が発生してから保険金が支払われるまでの一般的な流れは、以下のようになっています。

・医療事故の発生
・患者さんからの損害賠償請求
・クリニックによる事故受付、事故報告書の作成
・保険会社等による医療内容の分析、賠償責任の検討、賠償額の算定
・クリニックによる示談交渉、成立
・示談金の支払い
・保険金の請求
・保険金の支払い

医療事故紛争は、できる限り早期に交渉方針を確定し、患者さんやその家族に適切かつ丁寧に対応していくことが、長期化や訴訟化を回避する上でもっとも重要なことです。
そのため、クリニックは患者さんからの具体的な金銭要求がなくとも、損害賠償請求のおそれを認識した時点で医師会に連絡し、対象となる保険の有無、補償範囲、交渉方針をすり合わせる必要があります。
また、クリニックが賠償すべき内容には、治療費や交通費などの実費に加え、慰謝料や後遺障害、死亡逸失利益など、目に見えない補償もあります。
よって、医師会や保険会社とは密に連携し、交渉を進めなければいけません。
ちなみに、医師会や保険会社などへの事前連絡なしに賠償金、弁護士費用などを支払ってしまうと、賠償責任保険では支払われないことも考えられます。

まとめ

ここまで、開業医が医師会加入時に利用できる賠償責任保険のことを中心に解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
医師会は、賠償責任保険のような制度の導入により、開業医ひいてはクリニック全体をバックアップすることも1つの目的としています。
入会には年会費がかかるものの、サポートの内容を加味すれば、決して高くはない支出だと言えます。


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