クリニックの開業医が行う事業承継の多くは“親族内承継”です。
また、こちらをスムーズに実施することにより、クリニックは患者離れや経営状況の悪化などを防ぐことができます。
今回は、クリニックの事業承継方法の一つ、親族内承継のメリット・デメリットを中心に解説したいと思います。
目次
親族内承継の概要
クリニックの親族内承継は、現在の経営者(開業医)の子どもなど、親族を後継者とする事業承継の方法をいいます。
ここでいう親族には、実の息子や娘だけでなく、婿や妻、兄弟姉妹、甥、姪なども含まれます。
ちなみに、親族内承継以外にも、院外から新たに後継者を連れてくる方法や、第三者にクリニックごと譲渡する方法など、事業承継にはさまざまな形態がありますが、親族内承継がもっとも主流の方法です。
【開業医の事業承継】クリニックにおける親族内承継のメリット
クリニックが親族内承継をスムーズに行うことにより、前経営者(開業医)の経営手法や評判を維持したままクリニックが存続するため、患者満足度が著しく低下する可能性は低くなります。
また、そんな親族内承継のメリットは以下の通りです。
・教育期間を確保しやすい
・クリニック関係者の理解を得やすい
教育期間を確保しやすい
クリニックの後継者を一人前にするためには、数年~10年ほどかかると言われています。
親族内承継の場合、子どもなどの後継者に対し、早い段階から「いずれ経営者になる」ということを認識させることにより、教育と育成に十分な期間を確保することができます。
一方、第三者を後継者とする場合、このように十分な期間を確保することは難しくなります。
クリニック関係者の理解を得やすい
親族内承継の概要でも触れたように、日本のクリニックにおける事業承継の形としては、親族内承継がもっとも一般的です。
そのため、慣習として従業員、取引先など、クリニックの関係者にも受け入れられやすいです。
その反面、第三者を招き入れて行う事業承継は、長い間クリニックで勤務している従業員に対し、「なぜ外部から来た人が後継者なのか?」といった不満を抱かせてしまう可能性があります。
【開業医の事業承継】クリニックの親族内承継におけるデメリット
一方、クリニックの親族内承継には、以下のようなデメリットもあります。
・後継者に経営者の資質があるとは限らない
・感情的な問題が発生しやすい
後継者に経営者の資質があるとは限らない
親族内承継は、他の事業承継の方法とは違い、後継者を確保しやすいです。
しかし、開業医の子どもやその他の親族に、クリニックの経営者としての資質があるとは限りません。
また、資質や能力がないまま事業承継を行い、クリニックの経営状況が悪化した場合、後継者にはネガティブな意識が芽生え、従業員の風当たりも強くなる可能性があります。
このような状況は、患者離れやチーム医療の崩壊にもつながります。
感情的な問題が発生しやすい
前述の通り、クリニックの親族内承継は、開業医の子どもを後継者とするケースがもっとも多いです。
また、このようなケースは教育期間を確保しやすいですが、その反面、親子であるがゆえの甘えや妥協、感情的な衝突といった問題につながりやすいです。
つまり、現経営者と後継者が気を遣わない間柄であることから、事業承継がかえってうまくいかない可能性もあるということです。
クリニックの親族内承継におけるポイント
開業医の方が親族内承継を行う場合、以下のポイントを押さえることで、スムーズな事業承継を実現できる可能性がアップします。
・早めに準備を始める
・個人保証への対応
早めに準備を始める
親族内承継は、他の事業承継の方法よりも長い教育期間を確保しやすいですが、早めに準備を始める意識は持っておかなければいけません。
後継者に経営者としての自覚が芽生えたとしても、実際に現場の仕事を知り、リーダーシップを発揮する経験を積むためには、開業医の方が思っている以上の期間がかかります。
また、早めの準備は、後継者の能力を高めるだけでなく、従業員や取引先などの信頼を獲得することにもつながります。
個人保証への対応
クリニックが金融機関から借入をする際には、開業医の個人保証がしばしば行われます。
また、クリニックの事業承継を行う場合、個人保証の対象を後継者に移すことになりますが、早期に後継者を周知しておかなければ、金融機関との交渉が難航する可能性があります。
なぜなら、金融機関は現経営者(開業医)の経営手腕を信頼し、融資を行っているからです。
そのため、後継者と金融機関のつながりに関しても、じっくり時間をかけて形成する必要があります。
まとめ
ここまで、クリニックの事業承継方法1つ、親族内承継のメリット・デメリットを見てきましたが、いかがでしたでしょうか?
親族内承継を行う場合、開業医は自身の引退よりも、後継者の育成を最優先に考えなければいけません。
また、後継者が一人前になった後も、非常勤医師などの形で、適宜クリニックの経営をサポートすることが望ましいです。