医療法人のクリニックは、クリニックの建物以外にも、不動産を購入して所有することが可能です。
しかし、医療法人が不動産を購入するのであれば、不動産購入にどのようなメリットがあるのか、どのような注意点があるのかを事前に把握しなければいけません。
今回はこれらの点を中心に、詳しく解説します。
目次
医療法人の不動産購入におけるメリット
医療法人が不動産を購入することのメリットには、主に以下のことが挙げられます。
・減価償却ができる
・所得税の負担がない
・諸費用を経費として計上できる
減価償却ができる
医療法人が購入した建物は、減価償却という形で経費にすることが可能であり、こちらは大きなメリットだと言えます。
減価償却とは、固定資産の購入費用を使用可能期間にわたって分割し、費用計上する会計処理をいいます。
具体的には、建物や設備、備品や工具といった有形固定資産、ソフトウェアや特許権といった無形固定資産が減価償却の対象であり、医療法人が購入する不動産は有形固定資産に該当します。
所得税の負担がない
個人開業医として不動産を購入する場合、一旦個人で高額な所得税を支払わなければいけません。
こちらは、個人開業医にとって非常に大きな負担となるものですが、医療法人の場合は直接不動産の対価を支払うことができます。
つまり、医療法人が不動産を購入すれば、個人で高額な所得税を支払う必要がないということです。
諸費用を経費として計上できる
医療法人が不動産を購入するメリットとしては、不動産に関するさまざまな諸費用を経費として計上できることも挙げられます。
具体的には、以下のような諸費用が該当します。
・不動産購入時の税金
・固定資産税
・借入金で購入した場合の金利
・購入後にかかる修繕費
・水道光熱費 など
医療法人が不動産を購入する場合の注意点について
医療法人が不動産を購入することには、前述の通りさまざまなメリットがありますが、以下のような注意点があることについても把握しておきましょう。
・不動産投資ができない
・経費を否認される可能性がある
・土地は減価償却できない
不動産投資ができない
医療法人が不動産を購入するにあたって、必ず知っておかなければいけないのは、不動産投資ができないということです。
医療法人は、医業以外の収益性のある事業ができません。
そのため、当然借主から賃料を受け取る不動産投資をすることも禁止されています。
一般の企業において、不動産投資はごく一般的な資産運用法として実践されていることを考えると、こちらは医療法人における大きな欠点と言えます。
また、医療法人は不動産投資だけでなく、以下のような収益業務を行うことも認められていません。
・医療施設内での歯ブラシ、コンタクトレンズの販売
・他の医療法人等に対するコンサルタント
・講演、執筆、出版活動(役員等が個人で行う場合は該当しない)
ちなみに、医療法人は駐車場経営を行うこともできませんが、患者さん専用の駐車場に関しては、場所によっては認められる可能性があります。
経費を否認される可能性がある
先ほどメリットの項目で触れたように、医療法人は不動産を購入することで、さまざまな諸費用を経費にできるという話をしました。
しかし、購入した不動産の目的、用途が当初と異なる場合、それまでの間経費として計上してきた費用を否認される可能性があるため、注意が必要です。
土地は減価償却できない
医療法人が購入する建物は、減価償却の対象になりますが、土地は減価償却することができず、帳簿に残り続けます。
なぜなら、土地は景気の変動で価格が変動することはあっても、時間の経過で価値が減少することはないと考えられるからです。
よって、土地を購入して経費計上につなげるようと考えている方は、考えを改めてください。
ちなみに、建築中の建物についても、医療法人は固定資産として計上することができません。
完成前に建築中のための代金として支払った分は、建設仮勘定として固定資産に計上されますが、減価償却の対象にはならないため、勘違いしないようにしましょう。
“医療法人=不動産を購入できない”というわけではない
医療法人が不動産投資を禁止されていることに関しては、医業関係者であれば大体の方が知っていることです。
しかし、からといって、“医療法人は不動産を購入できない”と考えるのは間違いです。
先ほども解説したように、医療法人はクリニックの建物以外にも、不動産を購入して所有することが可能です。
また、医療法人であっても、患者さん専用の駐車場経営や、患者さんもしくはその家族を対象とするクリニック内の売店に賃貸する行為などは、例外的に認められることがあります。
よって、工夫すれば不動産を所有するだけでなく、活用することも十分に可能だということです。
医療法人がクリニックの建物を所有する方法について
ここまで解説してきたのは、医療法人がクリニックの建物以外の不動産を購入し、所有するケースに関することです。
では、クリニックの建物に関しても、必ず医療法人が購入し、自己所有しなければいけないのでしょうか?
結論からいうと、必ずしも自己所有しなければいけないわけではありません。
医療法人におけるクリニックの建物は、第三者から賃貸することができます。
ただし、賃貸する場合には、賃貸借契約書において、以下の項目を明記しなければいけません。
・契約期間の更新が円滑に行われる内容であること
・長期間の契約(10年以上)であること
また、医療法人がクリニックの建物を購入せず、賃貸する場合には、以下のような点にも注意する必要があります。
賃料の算定根拠について
医療法人の役員、関連企業、団体などからクリニックの建物を賃貸する場合は、賃料の算定根拠を示さなければいけません。
過大な賃料を支払っている場合、医療法人の剰余金の配当に該当するおそれがあります。
賃貸する建物の範囲について
医療法人の役員の住居などが、クリニックの建物と同一または併設された建物の場合、医療法人が賃貸するのは、開設するクリニックの不動産のみということについて、賃貸借契約書に明記する必要があります。
こちらもまた、医療法人が役員の住居部分まで含んで賃貸し、賃料を支出することが、医療法人の剰余金の配当に該当するおそれがあるからです。
クリニックの建物を自己所有する場合も注意が必要
医療法人がクリニックの建物を自己所有するケースで、医療法人設立時の取得方法が売買または出資による場合には、不動産鑑定評価書の額をもって売買価格または出資額とします。
また、医療法人がクリニックの建物を取得する際に、医療法人以外の第三者(法人の役員を含む)が債務者となって根抵当、抵当が設定されている場合には、必ずその債権債務の整理をした上で、医療法人は不動産を買い取らなければいけません。
適正な価格を明らかに上回る価格で医療法人が買い取った場合、医療法人の剰余金の配当に該当する可能性があります。
このように、医療法人はクリニックの建物を賃貸しようが、自己所有しようが注意が必要なことには変わりありません。
まとめ
ここまで、医療法人が不動産購入を購入することのメリット、購入時の注意点などについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
「医療法人では不動産投資ができないから、不動産購入は控えよう」と考えていた医師の方も、中にはいるかもしれません。
もちろん注意点はあるものの、経費を計上などによって医療法人は多くの恩恵を受けることができるため、ぜひ購入を検討してください。