産業医に支払う委託料は源泉徴収の対象になるのか?


美容クリニックなどの医療機関を含む事業所において、“産業医”の存在は必要不可欠です。
では、産業医に支払う委託料に関して、クリニックは源泉徴収をする必要があるのでしょうか?
ここからは、産業医の概要や必要性、ケース別に異なる委託料の源泉徴収の有無などについて解説したいと思います。

目次

産業医の概要

産業医とは、クリニックを含む事業所において、労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導やアドバイスを行う医師のことをいいます。
労働安全衛生法により、従業員の人数が50人を超える事業所には、産業医の選任が定められています。
また、産業医として活躍する医師は、専門的な医学知識について、法律で定められた以下のような要件を満たしています。

・労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であり、厚生労働大臣が指定する法人が行うものを修了した者
・産業医の養成等を実施することを目的とする医学の正規の過程を設置している産業医科大学その他の大学であり、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
・労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保険衛生である者
・学校教育法による大学において、労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、または常勤講師の職にある者、またはあった者

ちなみに、上記の法律で認められた要件を満たした医師だけでなく、厚生労働大臣が定めた医師も、産業医として活躍することがあります。

産業医の種類について

産業医には、“専属産業医”と“嘱託産業医”の2種類が存在します。
専属産業医は、その名の通り事業所専属の産業医であり、1,000人以上の事業所は、専属産業医を選任しなければならず、常勤が基本ですが、週3~4日勤務のケースもあります。
また、労働者が常時3,000人を超える事業所は、専属産業医を2人以上選任しなければいけません。
一方、嘱託産業医は、非常勤の産業医を指していて、常時いる労働者が50~999人の場合、その事業所が選任する産業医の形態は嘱託で構いません。
事業所の規模や業務内容にもよりますが、月に1回程度事業所を訪問し、他の事業所の産業医と兼任することが可能です。
ちなみに、嘱託産業医は、自身が所属しているクリニック等の医療機関で週3~4日ほど勤務しながら、残りの1~2日を嘱託産業医としての活動に充てるケースが多いです。

産業医の職務について

先ほど、産業医は事業所において労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導やアドバイスを行う医師だという風に解説しました。
また、このような健康管理等のプロフェッショナルである産業医の職務には、主に以下のようなものが挙げられます。

・健康診断の実施およびその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置(健康診断後の事後措置管理の管理者への指導助言および個別相談等を含む)
・作業環境の維持管理に関すること(作業環境測定および評価は別途専門機関が対応、紹介)
・作業の管理に関すること(作業負荷強度の評価および有害業務(危険有害化学物質の管理)の適正管理等)
・労働者の健康管理に関すること(疾病予防および健康づくり等)
・健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持推進を図るための措置に関すること
・過重労働者による健康障害防止(長時間労働者の面接指導、事後措置に関わる助言、勧告等)
・メンタルヘルスに関する事項(ストレス対策、関連疾患のケアに関する助言、指導等)

産業医のニーズは近年増加している

美容クリニックを含むさまざまな事業所において、近年産業医のニーズは増加しています。
その背景には、やはり業種を問わず散見される過酷な労働環境があると言えます。
長時間労働や過重労働、人間関係におけるストレスなど、日本の労働環境は以前から問題視され続けています。
これまでも過重労働による過労死、過労自殺が幾度となく報道されてきましたが、このような事態は事前に防ぐことができたと言って良いでしょう。
また、劣悪な労働環境に身を置く労働者の中には、立場上労働状況の改善を訴えることができない方もいます。
このような方々が、長時間労働によって息抜きをする機会を激減させ、病院に行ったり、カウンセリングを受けたりする機会もなく、ストレスや疲労を蓄積させた結果、体調不良や過労死、過労自殺につながってしまったというケースは少なくありません。
一方で、事業所に信頼できる産業医がいる場合はどうでしょうか?
産業医は、労働者の変化にいち早く気付き、迅速に対応してくれる健康管理のプロフェッショナルです。
よって、労働者は説得力のある助言や実行可能なアドバイスを受けることができ、身体的、精神的に追い込まれる可能性が極めて低くなります。

産業医への委託料における源泉徴収の有無について

美容クリニック等の事業所は、産業医に業務を委託する際、当然委託料を支払います。
所属する従業員に対する給与や報酬であれば、源泉徴収が必要であることは明確ですが、こちらの委託料は果たして源泉徴収が必要なのでしょうか?
実はこちらは医療法人に勤務する産業医と契約する場合、開業医(個人医師)と契約する場合で、その扱いが変わってきます。
詳しく見てみましょう。

医療法人に勤務する産業医と契約する場合

クリニック等の事業所が、医療法人に勤務する医師を産業医として派遣してもらう場合、その産業医に支払う委託料は、相手医療法人の売上となるものであることから、源泉徴収を行う必要がありません。
ただし、消費税は課税対象(課税仕入)となります。

開業医の産業医と契約する場合

クリニック等が法人ではなく、開業医(個人医師)の産業医に支払う委託料に関しては、原則所得税法上の給与に該当するものとして取り扱います。
そのため、源泉徴収を実施しなければいけません。
また、源泉所得税額についても、委託する側のクリニックとしては悩むところではありますが、一定の期間に何度か訪れてもらうかを明確にし、契約書を取り交わしていれば、月額表の乙欄で源泉徴収をすることになります。
ただ、こちらの委託料は給与扱いであるため、消費税の課税対象とはなりません。
ちなみに、例外として、事業所と開業医が雇用契約を結んでいなければ、支払う委託料の勘定科目は給与ではなく事業所得となります。
給与所得と事業所得の判断は、以下の内容を目安として考えると良いでしょう。

・業務の遂行にあたり、指揮監督をしているかどうか
・勤務時間や勤務場所の拘束はないかどうか
・材料や作業用具の提供をしているかどうか

産業医に支払う交通費の取り扱いについて

美容クリニック等の事業所は、産業医に対して委託料とは別に、交通費を支払うこともあります。
交通費に関しては、基本的には非課税ですが、利用する交通手段によって非課税限度額が異なります。
また、慣習として、実額を大きく上回るキリの良い金額を交通費という名目で支払うというケースが度々見受けられますが、こちらは非課税交通費とは認められない可能性があるため、注意が必要です。

まとめ

ここまで、産業医の概要と、産業医への委託料における源泉徴収の有無について解説してきましたが、いかがでしたしょうか?
産業医は、クリニック等において非常に重要な役割を果たす存在であり、一定規模以上のクリニックにおいて、必ず設置しなければいけません。
そのため、現時点では設置義務がなくとも、いずれ訪れる産業医への業務委託に備え、委託料の源泉徴収に関する知識は持っておくべきだと言えます。


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