美容クリニックの開業医における“優遇税制”について


美容クリニックの開業医になると、勤務医時代より納める税金が増加します。
しかし、開業医に対しては、他の事業に比べて税制上有利になる優遇措置があります。
せっかく優遇税制があるのであれば、開業にあたってできれば最大限活用したいものです。
今回は、美容クリニックの開業医における優遇税制について解説します。

目次

美容クリニックの開業医における優遇税制の目的

美容クリニックでの医療行為を含む医療の充実は、社会全体のメリットになります。
優遇税制は、このようなメリットを維持するため、医業の経営の安定を図ることを目的としています。
つまり、医療の届きにくい地域や人にも医療を届けるため、医業を安定して供給させるために、開業医の税負担を少なくしているということです。
また、美容クリニックなどの医師になるためには相当な費用がかかる上に、開業となればその負担はさらに大きくなります。
優遇税制には、このような状況下の開業医における負担を軽減させるという目的もあります。

優遇税制の概要

美容クリニックを含む開業医の優遇税制は、正式には“医師優遇税制”というものであり、経費の計上に関する特例です。
通常、売上から経費を差し引いた所得額が課税対象となります。
こちらの経費について、医師の場合は実際の必要経費だけではなく、概略経費の枠が設けられています。
簡単にいえば、実際に必要になった経費よりも高い金額を経費として申告できるということです。
つまり、最終的な事業所得の額面が少なくなり、ひいては納税額も少なくなるということです。
概略経費のメリットについては、後ほど詳しく解説します。
ちなみに、優遇税制を適用するには、以下の要件をすべてクリアする必要があります。

・医業または歯科医業を営む個人であること
・社会保険診療報酬が5,000万円以下であること
・事業所得に係る総収入金額に算出すべき金額の合計額が7,000万円以下であること
・確定申告書に当制度を適用して所得金額を計算した旨の記載があること

優遇税制の金額

優遇税制の概略経費は、1年間の社会保険診療報酬による所得によって、その額面が異なります。

社会保険料診療報酬(1)
2,500万円以下:(1)×72%
2,500万円超3,000万円以下:(1)×70%+50万円
3,000万円超4,000万円以下:(1)×62%+290万円
4,000万円超5,000万円以下:(1)×57%+490万円

仮に2,000万円の社会保険診療報酬があったとすると、1,440万円までが経費として認められることになります。
実際の所得が1,000万円でも、申告上は所得560万円の扱いになるわけです。
課税所得1,000万円のときの所得税は167万3,000円、住民税は97万2,000円ですが、課税所得560万円のときの所得税は62万9,000円、住民税は53万2,000円になります。
概算とはいえ、差額は148万4,000円であるため、決して少ない金額ではありません。

社会保険料診療報酬が5,000万円を超える場合

社会保険料診療報酬が5,000万円を超えてしまうと、優遇税制を受けることができませんが、薬を院外処方に変更することなどで診療報酬が下げられる可能性があります。
患者さんに支障のない範囲であれば、こちらの方法を検討してみるのも良いでしょう。
その他、以下のケースでも、優遇税制が適用される可能性があります。

・年の途中で医療法人化を検討している場合で、社会保険料診療報酬が5,000万円以下のタイミングで法人に移行する
・親子間での世代交代などにおいて、いずれか一方の社会保険料診療報酬が5,000万円以下

優遇税制のメリット

美容クリニックを含む開業医の開業医が利用できる優遇税制は、ハッキリ言ってとても有利な制度です。
節税には、主にキャッシュの支出があるもの、支出がないものの2つのパターンがあります。
節税をしようと考える場合、通常はパソコンを購入したり、広告代を支払ったりと、キャッシュの支出が発生します。
このような経費を使用すれば節税にはなりますが、それ以上の支出が出てしまうことになります。
つまり、美容クリニックにお金が残らないということです。
一方、優遇税制は、一般的な節税のように支出が出ていきません。
通常、所得税を計算するにあたっては、売上から経費を差し引いた利益に対し、所得税が計算されます。
売上は、保険売上や自費売上、雑収入の合計であり、経費は人件費や賃料、リース料、その他の経費の合計となります。
売上金額から、これらの実際にかかった経費を差し引いた利益を用いて、税金を計算する普通の計算方法を実額計算と呼びます。
これに対し、美容クリニックの場合、保険売上にかかる経費を、実際にかかった経費を使わずに、概算で計算することが可能です。
つまり、経費がいくらであろうが、保険売上が決まれば経費が概算で決定するということです。
こちらは非常に大きなメリットであり、経費をあまり使用していない効率の良い美容クリニックほど、優遇税制の恩恵は大きくなります。

優遇税制の注意点

美容クリニックの開業医が利用できる優遇税制には、前述の通り社会保険料診療報酬が5,000万円を超えると、原則適用されないという注意点があります。
また、その他の注意点としては以下が挙げられます。

・専従者給与の算入について
・自由診療収入について
・有利不利の判定について

専従者給与の算入について

専従者とは、美容クリニックの開業医が個人事業主として生計を一にしている配偶者、15歳以上の親族などで、1年のうち6ヶ月以上(もしくは従事できる期間の半分以上)その事業に従事している家族従業員を指します。
また、文字通り専従者に対して支払われる給与が専従者給与です。
青色申告の場合、家族従業員に支払う給与は、届出によって専従者給与として必要経費に算入することが可能です。
ただし、こちらの場合は、概略経費を用いる方が有利になることがあります。
そのため、どちらが有利になるのかについては、事前に確認しておくべきです。
もし、専従者給与を支払った後、概略経費の方が税制上の恩恵が大きかったことが判明したとしても、源泉所得税支払い済みの専従者給与は取り消しができません。

自由診療収入について

美容クリニックの開業医が優遇税制を活用するにあたって、特に注意しなければいけないのは、自由診療収入に関することです。
優遇税制は、あくまで社会保険料診療報酬が5,000万円以下の場合に選択できる制度です。
自由診療収入がある場合、必要経費は社会保険診療、自由診療のそれぞれにかかる固有経費、共通経費に分類し、共通経費に関しては按分して所得計算をしなければいけません。
美容クリニックは、他の診療科目に比べて自由診療を多く提供しているため、こちらの計算が複雑になることも考えられます。

有利不利の判定について

美容クリニックにおいて、優遇税制を適用させるにあたっては、有利不利の判定が必要不可欠です。
つまり、適用させることにより、これまでより得をするのか、それとも損をするのかをしっかり見極めるのが重要だということです。
例えば、過去は優遇税制を適用する方が有利だった場合でも、収入金額や必要経費の増減などにより、実額経費の方が有利になっているというケースもあります。
そのため、確定申告書を提出する前に、時間をかけて精査する必要があります。

まとめ

ここまで、美容クリニックの開業医における優遇税制について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
美容クリニックの開業医になると、課税の悩みは増えるものの、優遇税制という心強い制度があることはお分かりいただけたかと思います。
経営の安定化には資金力は必須であるため、社会保険診療報酬の金額を把握しながら、最大限優遇措置を活用されることをおすすめします。


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