クリニック経営の保険活用について

開業したクリニックの安定経営を考えたとき、資金的に余裕をもっておくことが不可欠です。
クリニックが資金を貯えていくためには、節税対策が必要になってきます。
とりわけ、活用しやすいのが保険による節税です。

クリニックの節税対策の考え方

節税対策と聞くと、どうしても専門的な知識を有するコンサルタントの領域のように感じられてしまいます。もちろん、より効率的で効果的な方策を講じるためには、専門家の力も必要です。しかし、基本的な考え方はきわめて単純で「経費や損金で益金を減らす」「税率を下げる」ためにいろいろな手法を取っているにすぎません。難しく考えすぎずに、できることから着手していきましょう。

まずは利益が多い事業年度で、損金を計上して利益の圧縮を行うことです。法人生命保険の保険料も損金計上できるため、法人税節税の節税対策に適しています。

法人税率について

ここで、法人税の課税の仕組みについて確認しておきます。法人税は、企業の所得に応じて課税される税金です。所得に対してある税率をかけて確定され、その税率はあらかじめ設定された、次のものが適用されます。

平成29年4月1日以降に開始される事業年度の法人税率は、23.2%。平成30年4月1日以降に開始される事業年度は23.2%です。資本金1億円以下の中小法人向けの軽減税率の特例もあります。年間所得800万円以下の部分について適用され、平成31年3月31日までの間に開始する各事業年度は、税率15%となっています。

法人税の計算方法

所得の金額のうち、年間800万円以下までは軽減税率15%の適用範囲です。年間800万円以上を超える部分については、基本の法人税率23.2%を乗じます。
つまり、所得金額が2000万円の医療法人・MS法人なら「1200万円×23.2%」と「800万円×15%」という式から計算された「464万円」と「120万円」の合計「584万円」が該当する事業年度の法人税となります。

なお、法人税のほかに「法人都民税(法人県民税、法人市民税)」、「法人事業税」があります。どちらも所得に所定の税率がかけられますから、利益圧縮が税負担の軽減につながります。

保険種別と保険料の損金の割合について

では、利益圧縮をするために、益金が0円になるよう生命保険に加入するべきかというと、そうではありません。そもそもどんな生命保険の保険料も全額損金にできるわけではなく、商品によって損金繰り入れ可能な範囲が異なります。代表的な法人向け生命保険商品は以下のとおりです。

  1. 全額損金生命保険(養老保険、定期保険、生活障害保険など)
    支払った保険料の全額が損金計上できます。
  2. 2分の1損金生命保険(逓増定期保険、養老保険、長期平準定期保険など)
    支払った保険料から、2分の1が損金に計上できます。
  3. 3分の1損金生命保険(逓増定期保険など)
    支払った保険料のうち、3分の1が損金として計上できます。
  4. 資産計上型生命保険(終身保険など)
    支払った保険料の全額が「資産」に計上されます。

このように、各生命保険の商品によっては損金にできる割合が異なるのです。資産計上型生命保険では、保険料全額が資産計上されますので、節税対策としての目的を果たせなくなります。生命保険としてのプランはもちろんですが、損金計上できる割合についても、かならず加入前に確認されることをおすすめします。

医療法人は「全額損金生命保険」が一番おトク?

さて、こうしてみると3分の1損金生命保険より2分の1損金生命保険、2分の1より全額損金生命保険が、よりおトクのように見えてきます。たしかに保険料を支払っている期間の事業年度については、法人税の節税効果が見込めるのですが、満期や解約の際に受け取る返戻金の税負担が大きくなる可能性があります。法人税の節税対策を目的とした生命保険加入の場合は、解約返戻金まで想定するべきでしょう。

全額損金に算入できる『定期保険』と、2分の1が損金にできる『逓増定期保険』を比較しますので、参考になさってみてください。

定期保険(全額損金生命保険)

  1. 支払保険料が全額損金に計上されるため、利益圧縮でき法人税の節税効果がある。※メリット
  2. 支払保険料が全額損金に計上されるため、解約返戻金の受取り時に雑収入扱いとなり、益金算入される。※デメリット
  3. 解約返戻金の返戻率が80%~85%程度しかない。※デメリット

逓増定期保険(2分の1損金生命保険)

  1. 払込み保険料の2分の1が損金に計上される。残りの半分は資産になるため、解約返戻金のうち、半分が雑収入(益金)の扱いに。※メリット
  2. 解約返戻金の返戻率がピーク時には、100%近くなる。※メリット
  3. 払込み保険料の2分の1が損金計上になるので、利益圧縮の効果が少なく、節税効果が低い。※デメリット