医師の源泉徴収について~知っておきたい税金の基礎知識~


美容クリニックを開業する方は、使用者としてさまざまなことを学ばなければいけません。
その際に欠かせない知識が“源泉徴収”であり、こちらを怠るとトラブルにつながってしまうことも考えられます。
ここからは、美容クリニック等の医師における源泉徴収や税金などについて詳しく解説したいと思います。

目次

源泉徴収とは?

源泉徴収とは、給与を支払う側(使用者)が、あらかじめ給与を受け取る側(労働者)の所得税を差し引き、給与を渡す仕組みのことをいいます。
本来所得税の納税義務があるのは労働者ですが、こちらに代わって使用者が国に税金を納める仕組みとして、広く利用されています。
美容クリニックを開業する方だけに限らず、従業員の給与を支払う事業者であれば、必ず行わなければいけない手続きであり、こちらを実施することで、従業員は確定申告をすることなく、毎月の給与から少しずつ所得税を納めることができます。
ちなみに、源泉徴収は国にとってもメリットの大きい仕組みであり、安定的な税収を得ること、確実に所得税を徴収することにつながります。

医師の源泉徴収は必ず実施しなければいけないのか?

先ほど、従業員の給与を支払う事業者は、必ず源泉徴収を行わなければいけないという話をしました。
では、美容クリニック等で勤務する医師の源泉徴収も、必ず実施しなければいけないのでしょうか?
結論からいうと、医師には源泉徴収が必要な医師と、そうでない医師が存在します。
では次は、こちらの見極め方について解説しましょう。

医師に支払う金銭の扱いが重要なポイント

美容クリニック等の使用者が、医師に対して支払っている金銭の扱いによって、源泉徴収が必要なのかどうかは変わってきます。
法律では、金銭を給与として支払う場合、使用者に源泉徴収を行う義務があるとみなされます。
もし、源泉徴収を怠ってしまったら、美容クリニックは源泉徴収の漏れにより、所得税分の金額を税務署に支払わなければいけませんし、遅延が発生すると、対象の所得税に対する延滞税がかかるため、注意しましょう。
一方、金銭を報酬として支払う場合、使用者はその医師における源泉徴収を行う必要がありません。
つまり、このような場合、所得税の支払い義務は美容クリニック側ではなく、労働者である医師側に残ったままになるということです。

給与と報酬は何が違うのか?

美容クリニックが給与を支払っている医師は源泉徴収が必要であり、報酬を支払っている医師は源泉徴収を行う必要がありません。
また、給与を支払うのか、それとも報酬を支払うのかについては、医師の雇用形態によって変わってきます。
一般的な常勤医師、つまり正社員等の雇用形態で勤務する医師に対しては、給与という形で金銭が支払われます。
一方、業務委託契約を結ぶ医師などには、報酬として金銭が支払われるケースが一般的です。
例えば、非常勤の専門医を招聘し、治療を行ってもらっているような場合、一般的な常勤医師と同じ雇用形態とすることは難しく、業務委託契約による報酬の支払いと解釈することができます。
ちなみに、源泉徴収の義務が発生しないことは、税務上の手間が省けるなど、使用者側にとってメリットが多く、多くの美容クリニック等では、業務委託契約によって医師が招聘されています。

医師の源泉徴収における流れ

美容クリニックを開業する方は、今後給与を支払う医師における源泉徴収を実施することになるかもしれません。
そのため、今のうちから源泉徴収の大まかな流れを把握しておきましょう。
年間で実施される源泉徴収事務は、毎月の源泉徴収、年末調整、一定の条件で必要な確定申告の3つです。
それぞれ詳しく見てみましょう。

毎月の源泉徴収

医師における給与から、毎月差し引く源泉徴収は、総支給額から非課税の交通費、社会保険料等を差し引き、手取り額を確定して行います。
また、このとき差し引いた所得税は、翌月10日までに所轄の税務署に納付しなければいけませんが、従業員数が常時10人未満の事業所であれば、届出を行うことで半年ごとの納付が利用可能です。

年末調整

美容クリニック等が毎月行う医師の源泉徴収は、あくまで仮の納税です。
1年が終了しない限り、正確な税額は確定しません。
例えば、美容クリニックで勤務する医師に子どもが生まれ、扶養家族が増えたり、昇給などによって給与が増加したりすると、当初の税額との整合性がなくなってしまいます。
このようなズレを解消するのが、年に一度実施される年末調整です。
こちらは、年間の所得と控除による所得税の再計算であり、使用者は実際源泉徴収した額と比較して、源泉徴収額が多ければ返金し、少なければ追加課税を実施します。
また、美容クリニック等は医師に対し、1年間で支払った給与と税金の金額が記載された用紙(源泉徴収票)を発行します。

確定申告

美容クリニックは、毎月の給与からすでに源泉徴収をしているため、原則医師に対し、確定申告を促す必要はありません。
ただし、一定の条件に当てはまる場合、医師は源泉徴収とは別に確定申告を行わなければいけないため、該当する医師にはその旨を伝えましょう。
具体的には、以下のようなケースに当てはまる場合、確定申告が必要になります。

・医療費控除を利用する場合
・寄付金控除を利用する場合
・住宅ローン控除を利用する場合
・副収入が年間20万円を超える場合
・年収が2,000万円を超える場合 など

源泉徴収票の作成方法

美容クリニックが医師に対して発行する源泉徴収票は、医師の退職時や年末調整業務後などのタイミングで作成します。
また、作成の際には、以下の項目を記入します。

・支払金額、給与所得控除後の金額
・所得控除額の合計額
・源泉徴収税額
・その他

支払金額、給与所得控除後の金額

支払金額には、控除や源泉徴収がされる前の給与収入を記入します。
また、給与所得控除後の金額は、給与収入から給与所得控除額を差し引くことで算出されます。
このとき適用する給与所得控除額は、給与収入の金額によって変わってきます。

所得控除額の合計額

所得控除額の合計額とは、対象となる控除の金額をすべて合計したものを指します。
また、対象となる控除には、主に以下のようなものが該当します。

・基礎控除
・配偶者控除
・配偶者特別控除
・扶養控除
・社会保険料控除
・生命保険料控除 など

源泉徴収税額

源泉徴収税額には、支払金額から給与控除額、所得控除額を差し引いた課税所得額に、所得税率をかけて算出した数字を記入します。
ちなみに、所得税率については、給与所得控除額と同じように、課税所得額がいくらなのかによって異なります。

その他

源泉徴収票に記載するその他の項目には、控除対象扶養家族の数や、社会保険料等の金額、生命保険料の金額などが挙げられます。
こちらの金額は、支払金額や所得控除額の合計額、源泉徴収税額とは違い、すでに確定していることが多いため、基本的に別途算出する必要がありません。
ちなみに、マイナンバー制度の施行後、事業所が作成する書類にマイナンバーを記載する機会が増加しましたが、源泉徴収票には記載する必要がありません。

まとめ

ここまで、美容クリニックを開業する方に向けて、医師の源泉徴収や税金に関することを細かく解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
源泉徴収が必要な医師をしっかりと見極め、期日までに適切な手続きをしなければ、使用者側にはペナルティが科されてしまう可能性があります。
また、手続きを怠ることは、医師との関係性を悪化させてしまうことにもつながるため、注意しましょう。


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