美容クリニックの開業を目指す方は、今後MS法人を活用する機会が訪れるかもしれません。
また、MS法人を活用する場合、クリニックはさまざまな契約書を交わし、大切に保管しておく必要があります。
ここからは、代表的な契約書の種類と詳細について解説したいと思います。
目次
クリニックとMS法人が交わす契約書は主に5つ
美容クリニックを含むクリニックとMS法人は、完全に別の法人です。
そのため、活用する際には、一般的な法人同士がそうするように、契約書を交わさなければいけません。
また、実際交わされる契約書としては、主に以下の5つが挙げられます。
・業務委託契約書
・賃貸借契約書
・使用貸借契約書
・金銭消費貸借契約書
・リース契約書
では、それぞれの契約書について、さらに詳しく見ていきましょう。
業務委託契約書
業務委託契約書は、その名の通り業務を委託する側の法人が、相手方の法人に対して何らかの業務を委託する際に締結する契約書です。
契約書の名称は、“注文書”や“発注書”となっている場合もありますが、いずれにせよ業務の具体的な依頼内容、取引条件、対価などを決定する重要なものです。
美容クリニック含むクリニックは、MS法人を活用し、本来は実施できない医療行為以外の業務を行うことができます。
ただし、こちらのケースは、MS法人に対し医療行為以外の業務を“委託する”という形になるため、必ず業務委託契約書を締結しなければいけません。
仮に、業務委託契約書を交わしていなかった場合、税務署によって業務を否認される原因となります。
ちなみに、MS法人は、医師法や歯科医師法、医療法のすべてに抵触しないクリニックにおける医療行為以外の業務を実施できます。
具体的には以下のような業務を指していて、クリニックがこれらの業務をMS法人に委託する場合には、業務委託契約書が必要となります。
・土地や建物などの不動産賃貸業務
・クリニックにおける薬品材料の調剤業務
・クリニックにおける備品類の販売業務
・医療機器などのリース業務
・クリニックに対する経営資金の貸付業務
・診療報酬の請求業務代行
・投資業務 など
賃貸借契約書
賃貸借契約書は、賃貸物件の貸し借りが行われる際、貸主と借主で締結される契約書です。
賃貸の条件に関する項目が記載されていて、具体的な内容は主に以下の通りです。
・物件の名称、所在地
・物件の構造
・付属品、残留物
・契約期間、更新
・賃料、共益費
・契約解除、明け渡し条件 など
先ほど、MS法人が実施できる業務として、土地や建物などの不動産賃貸業務があることに触れました。
こちらの契約書は、MS法人が不動産事業として土地や建物を美容クリニック等に貸し出す際、両者の間で必ず締結しなければいけないものです。
ちなみに、賃貸借契約には以下の2つの種類があり、どちらを選択するかによって、賃貸借契約書の内容も大きく変わってきます。
・普通借家契約
・定期借家契約
普通借家契約は、契約期間を1年以上で設定する契約であり、一般的には2年契約で運用されています。
契約期間が満了しても、借主が希望すれば更新が可能で、貸主は正当事由がなければこちらを拒絶することができないとされていますが、クリニックとMS法人における賃貸借契約において、こちらのルールはあまり関係ないと言えます。
また、定期借家契約は、契約期間の満了とともに契約が終了する契約です。
使用貸借契約書
使用貸借契約書は、貸主と借主の間で不動産を無償で契約する際、必ず締結しなければいけない契約書です。
有償で不動産の貸し借りを行う場合の賃貸借契約は、借地借家法に基づいて交わされますが、使用貸借契約は、原則いつでも貸主が契約を解除することができ、借地借家法も適用されません。
そのため、ほとんどは親子や兄弟、親族などの間で交わされます。
美容クリニック等のMS法人も、こちらの親族関係に非常に近いものですが、無償とはいえ契約であることに変わりはないため、契約書なしで土地を使用することは基本的にできません。
ちなみに、使用貸借契約では、前述のように原則貸主が一方的に契約を解除できるため、契約書を作成しないというケースも多いです。
しかし、クリニックとMS法人との間で締結する場合、感覚的には親族同士のようなものであったとしても、実際はまったくの別法人同士における契約であるため、面倒であっても必ず作成する必要があります。
金銭消費貸借契約書
金銭消費貸借契約書は、借主が貸主から金銭を借り入れ、将来同じ金額で返すことを約束する際、締結される契約書です。
一般的な金銭消費貸借契約書では、借りた金額に一定の利息を付けて返済することを約束し、元金と利息をあわせて毎月返済するという内容の契約を結ぶケースが多いです。
もし、美容クリニック等とMS法人との間で、金銭の貸借があったのであれば、こちらの契約書を交わさなければいけません。
ただし、こちらのケースでは、必ずしも契約書に利息を付けて返済する旨を記載しなければいけないわけではありません。
ちなみに、金銭消費貸借契約書に記載される主な内容には、以下の項目が挙げられます。
・借入額、返済期日(返済期間)
・金利、金利タイプ
・返済が滞った場合の措置
・担保
・諸費用の負担および支払い方法
・連帯債務、連帯保証
リース契約書
リース契約書は、MS法人がクリニックに動産のリースを行う際に交わす契約書です。
リースとは、ユーザーにとって必要な機械等について、ユーザーが直接購入するのではなく、リース会社が購入し、ユーザーは毎月一定のリース料金を支払うことで、機械設備を借りるという契約形態をいいます。
“レンタル”が、レンタル会社が所有する物品から借りるものを選ぶシステムであるのに対し、リースはユーザーの希望物品をリース会社が購入し、貸借するという形を取ります。
MS法人は、業務の一環として、医療機器などのリース業務を行うことができます。
また、リース業務を行う場合は、前述したユーザーがクリニック、リース会社がMS法人に該当します。
つまり、クリニックはMS法人に必要な機器を購入してもらい、金銭を支払うことで、それをMS法人から借りることができるということです。
ちなみに、リース契約書には、もちろんリース料金が記載されていますが、こちらが不自然な金額である場合、取引は否認されてしまう可能性があるため、注意しましょう。
適正なリース料金の目安は、取得価額の1.25倍程度とされています。
契約書の作成は外部の専門家に依頼すべき
美容クリニック等とMS法人が交わす契約書の内容に不備があると、いざというときに期待通りの効力を発揮しない可能性があります。
よって、不備なく契約書を作成する自信がない場合は、外部の専門家に依頼することをおすすめします。
また、主な依頼先としては、弁護士や行政書士などが挙げられますが、それぞれ対応できる業務範囲は異なります。
弁護士は法律事務全般に対応しているため、契約書作成代行のほか、契約内容に関するアドバイスやトラブル発生時の交渉サポートなども依頼できます。
一方、行政書士は書類作成代行がメインであり、弁護士ほど対応範囲は広くありません。
まとめ
ここまで、クリニックとMS法人が交わすべき契約書について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
クリニックとMS法人は同じ組織に属しているため、どうしても契約書作成などの事務処理が雑になってしまいがちです。
しかし、MS法人における業務が否認され、活用できなくなることを考えると、1つ1つ確実に事務処理をこなしていくべきだと言えます。
今後美容クリニックを開業するという方も、必ず念頭に置いておきましょう。