医療法人と株式会社にはどのような違いがあるのか?


医療法人と株式会社には、それぞれが可能なこと、または経営に関する規定にいくつかの違いがあります。
それぞれの違いについて理解することで、これからもっと効率的に医療法人を経営させることが可能になることでしょう。
大きな違いから細かい違いまで、さまざまな角度から解説していきます。

目次

医療法人の概要

医療法の定めにより、病院または医師が常時勤務する診療所、あるいは介護老人保健施設を開設する組織を医療法人といいます。
医療法人には、現存しないものも含めてさまざまな種別や区分が存在します。
昭和25年の医療法改正で制度が創設された医療法人は、人の集まりである“社団”と財産の集合体である“財団”に大別されますが、現在ではほとんどの医療法人が“医療法人社団”となっていて、主流化しています。
ちなみに、医療法人社団は、複数の人が集まり、現金や不動産、医療機器など一定の財産を拠出した団体が都道府県知事の認可を受け、登記することによって成立する医療法人形態です。
社員総会が最高意思決定機関となり、法人内の最高法規としては、定款で基本的事項を定めることになります。

株式会社の概要

株式を発行し、資金を集めて作られる会社の代表的な形態を株式会社といいます。
会社経営の源泉となる資本の所有者と、会社の経営を行う人物が分離していて、資本金を提供した人物が株主となります。
また、経営を行う経営者は、株主による集会である株主総会での選出によって決定します。
社会的にも認知度が高く、合同会社などの持分会社と比べて守らなければいけない法律の規制が多いため、信用度も高いです。
ただし、設立費用は比較的高額であり、持分会社にはない決算公告の義務が存在するのも、株式会社の特徴の1つです。

医療法人と株式会社の大きな違いは?

医療法人と株式会社のもっとも大きな違いは、なんといっても配当に関する規定です。
株式会社では、出資者に対する配当が認められていますが、医療法人では禁止されています。
医療法人は非営利性を保つ必要があるため、クリニックの運営によって生じた剰余金の配当はできないのです。
また、配当でなくとも、医療法人では利益の分配と判断される行為は禁止されています。
利益の分配と判断される行為には、MS法人への業務委託において、高額な委託費を設定するなどの行為が該当します。

医療法人と株式会社には細かい違いも多く存在する

医療法人と株式会社には、その他にも細かい違いがいくつもあります。
具体的には以下の通りです。

・議決権
・社員、株主、代表者の資格
・業務
・解散時の残余財産
・自己株買い
・事業承継税制

議決権

株式会社では、株式数に応じた議決権を有する一株式一議決権の制度が適用されているのに対し、医療法人は一社員一議決権の制度が適用されています。
一社員一議決権は、出資持分の有無、数量に関わらず、社員1人あたり1つの議決権を有するという制度です。

社員、株式、代表者の資格

医療法人の社員や株主は、義務教育終了以上の人物でないと務められませんが、株式会社にはそのような規定がありません。
代表者の資格に関しても、医療法人は原則医師でないといけないのに対し、株式会社には規定が設けられていません。

業務

医療法人が行える業務には、医療以外の事業について多くの規定があります。
一方、株式会社が行える業務には会社法上の制限が特になく、自由度が高くなっています。

解散時の残余財産

医療法人の解散時の残余財産は国庫等に帰属されるのに対し、株式会社は出資者に分配されます。

自己株買い

自社が発行した株式を、その法人の株主から買い取ることができる自己株買いについて、株式会社では規定が設けられていますが、医療法人には特に規定がありません。

事業承継税制

事業承継税制とは、円滑化法に基づく認定のもと、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。
株式会社は、こちらの対象になるのに対し、医療法人は対象外となっています。

医療法人と株式会社の合併の違いについて

医療法は、医療法人の合併について認めていて、合併の際には合併契約を締結しなければいけないとしています。
このとき注目すべきポイントは、医療法人合併の当事者は医療法人だけに認められていて、株式会社等他の法人形態では認められていないという点です。
具体的な合併方法には、吸収合併と新設合併の2種類があり、前者は医療法において、以下のように定義されています。

・医療法人が他の医療法人と行う合併であり、合併によって消滅する医療法人の権利義務のすべてを、合併後存続する医療法人に承継させるもの

そして、後者である新設合併は、同じく医療法において、以下のような定義が設けられています。

・2以上の医療法人が行う合併であり、合併によって消滅する医療法人の権利義務のすべてを、合併によって設立する医療法人に承継させるもの

では、医療法人は株式会社とは違い、一切制限を受けずに合併ができるのでしょうか?
以前、医療法人の合併に関しては、社団相互間および財団相互間においてのみ可能というルールがありました。
その後、厚生労働省医政局医療経営支援課長通知“社団たる医療法人と財団たる医療法人の合併について”において、社団と財団間での合併も可能になっています。
つまり、一切何の制限もないというわけではないにしろ、改正によって医療法人における事業承継の選択肢が広がったのは事実です。

医療法人における事業承継の難しさについて

先ほど、医療法人は法改正により、事業承継の選択肢を広げたという話をしました。
しかし、株式会社と比較すると、まだまだ事業承継における難しさはまだまだ残っていると言えます。
その根拠となるポイントは以下の通りです。

・後継者について
・議決権について
・出資持分について

後継者について

医療法人は、株式会社とは違い、後継者が医師または歯科医師に限定されます。
株式会社であれば、法的な要件はなく、一切違うジャンルでキャリアを重ねてきた方でも後継者となるケースがありますが、医療法人にはこのようなことがありません。
そのため、なかなか後継者が決定せず、前任者の負担が長引いたり、事業承継が頓挫したりすることも珍しくありません。

議決権について

株式会社であれば、対象会社の株式を100%後継者に譲渡すれば、株主総会決議において、経営をコントロールすることが可能です。
一方、医療法人は資本多数決の原理にとらわれないため、仮に出資持分100%を取得したとしても、経営における意思決定はスムーズに決定しません。

出資持分について

こちらは、出資持分のある医療法人に限ったことですが、買い手が売り手から出資持分を買い取る際、資金の原資を金融機関等の借入で調達できたとしても、買い取った出資持分に関して配当が行われないため、借入の返済原資を別途用意する必要があります。
そのため、医療法人の規模が拡大した場合、個人間の出資持分譲渡では対応できず、払戻請求権で対応せざるを得ないことも考えられます。

まとめ

ここまで、医療法人と株式会社の違いについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
これらの形態は準拠する法律が異なるため、前述したような細かい違いが出てくるのは当然です。
また、どちらの形態を選ぶ場合であっても、メリット・デメリットを把握し、医療法人は医療法人、株式会社は株式会社でしか立てられない経営戦略を


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