MS法人が不動産業務を行う理由や実施のポイントについて


MS法人は、クリニックでは実現できないさまざまな業務を実施できます。
中でも代表的な業務の1つが、今回解説する“不動産業務”です。
では、MS法人が不動産業務をする理由には、一体どのようなことが挙げられるのでしょうか?
また、MS法人が不動産業務を実施する際は、どのようなポイントを押さえるべきなのでしょうか?

目次

MS法人が実施する不動産業務のパターン

MS法人が実施する不動産業務のパターンは、基本的に以下のいずれかとなります。

・第三者から借り入れているテナントをクリニックに転貸する
・クリニックに直接建物を賃貸する

前者は、MS法人がテナントの所有者と賃貸借契約を締結し、その後さらにクリニックへ又貸しするというパターンです。
こちらは、いわゆるサブリースと呼ばれるものであり、MS法人が内装工事などを実施し、その工事にかかった費用を上乗せした賃料で、クリニックに貸し付けることもできます。
また、後者はMS法人が建物を購入・所有し、直接クリニックに賃貸するというパターンです。
第三者が関与することのない、とてもシンプルな形です。
ちなみに、クリニックの社宅をMS法人で購入することで、社宅として利用していない部分に関しては、クリニックと関係のない第三者に貸し付けることも可能です。

MS法人が不動産業務を行う理由は主に3つ

MS法人が不動産業務を行う理由は、主に以下の3つです。

・院長の能力低下
・税金対策
・クリニックの建て替え

院長の能力低下

MS法人が不動産業務を行う理由としては、まず院長の能力低下挙げられます。
院長が投資の一環として不動産業務を行っていたとしても、能力や体力が低下すれば、不動産業務を継続するのは困難になります。
こちらは、判断能力が乏しければ、不動産賃貸業務を行うことはできない上に、銀行口座から資金を引き落とすのも難しくなる場合があるからです。
こうなってしまうと、院長の後継者や相続人は非常に困ってしまうため、院長が投資の一環として個人で行う不動産業務を、MS法人としての業務に切り替えます。
そして、MS法人が院長と賃貸借契約を行い、サブリースを実施することで、能力や体力が低下した院長でも、不動産賃貸業務ができるようになります。
つまり、院長が所有している不動産の賃貸業務をすべてMS法人が担うことで、能力や体力が低下した院長のサポートができるということです。

税金対策

MS法人が不動産業務をするもう1つの理由としては、税金対策が挙げられます。
院長が投資の一環として行っていた不動産業務における賃料の一部をMS法人に移転させることによって、利益の分散が可能です。
また、利益が分散すれば、所得税や相続税などの税金対策となります。
ちなみに、医療法人の場合は、MS法人に賃料の一部を移転させることで、法人税の課税額を抑えることができます。

クリニックの建て替え

クリニックの建て替えも、MS法人が不動産業務を行う理由の1つです。
老朽化した建物については、クリニックが直接建て替える他、MS法人が建て替えを行い、クリニックに賃貸物件として貸し付ける方法で新しくすることができます。
また、MS法人の不動産業務を院長の親族などが務める場合、こちらの方法はいわば不動産業務における練習の一環となります。

MS法人の不動産業務はクリニック経営に関わっていない方でも実践可能

MS法人で行う不動産業務では、維持・管理や清掃、入居者や業者への対応などを行います。
もちろん、不動産業務を開始する前に、それらの知識を身に付ける必要はありますが、クリニックとは違って医療関係の知識は必要ありません。
そのため、これまでクリニック経営に一切関与してこなかった院長の親族であっても、比較的スムーズに実践できることが期待できます。

MS法人が不動産業務を行う際の注意点

MS法人が不動産業務を行い、建物をクリニックに賃貸する場合には、当然ながら賃料を設定します。
このとき、院長は「賃料はいくらにしても大丈夫」という認識を持ってしまいがちですが、実際はそうではありません。
MS法人が設定する賃料は、世間相場と比較して妥当な金額にする必要があります。
明らかに相場との乖離が見られる場合、税務否認の対象になってしまうこともあるため、注意してください。
また、一度MS法人とクリニックとの間で設定した賃料に関しては、何度も見直さないことをおすすめします。
なぜなら、賃料の見直しを繰り返すことで、利益調整と判断され、税務調査で否認されやすくなるからです。
特に、賃料などの固定費は、業務を変更したり、追加したりしたとき以外に変更すると、怪しまれてしまう可能性が高いです。
ちなみに、MS法人とクリニックが締結する土地建物賃貸借契約書には、主に以下の項目について明確に記載する必要があります。

・賃貸借期間
・月額賃料
・支払時期
・権利金、敷金の有無と金額
・内部改装費の負担関係 など

その他、MS法人が不動産業務を行う際は、舞事業年度終了後、3ヶ月以内に“関係事業者との取引の状況に関する報告書”を作成する必要があります。
こちらは、平成27年に公布された“医療法の一部を改正する法律”により、関連会社に対する一定規模以上の取引報告義務が制定されたことが理由です。
節税のみを意識しすぎた結果、経営実態があやふやになったり、適正な取引価格を超えてしまったりしているMS法人は、今後税務調査での否認リスクが高まるのは間違いありません。

MS法人がクリニックの建物における管理業務を行う場合について

MS法人が行う不動産業務と言えば、クリニックに対して又貸しや直接契約により、不動産を貸し付ける業務が一般的です。
その他のパターンとしては、クリニックが所有する不動産における管理業務についてのみ、MS法人が行うということも考えられます。
また、このときMS法人は、クリニックから委託された管理業務のうち、一部を外部の不動産会社に委託することができます。
このような形を取ること自体は問題ありませんが、MS法人を飛び越して、クリニックから直接外部の不動産会社に委託すると、おかしなことになります。
院長が自らの医師でMS法人を設立し、そちらに管理料を支払っているのであれば、きっちりMS法人が管理業務を行わなければいけません。

購入型の場合はさまざまな費用もかかる

MS法人がクリニックと賃貸借契約を結ぶ場合、サブリース型と購入型のいずれかを選ぶことになります。
また、これらには節税効果があるという話をしましたが、購入型の場合はさまざまな費用がかかることも忘れてはいけません。
具体的には、物件の取得費用はもちろんのこと、購入時および購入後に毎年支払う以下のような税金が生じます。

・不動産取得税
・登録免許税
・消費税
・印紙税
・固定資産税
・都市計画税
・所得税
・住民税

その他、管理費や修繕費、保険料といった維持費用もかかるため、こちらの点は前もって留意しておきましょう。
そして、もっとも注意しなければいけないのが、不動産を売却する際にかかる譲渡税です。
不動産売却によって利益が出た場合、その利益に対する譲渡税が課税されますが、法人の場合は保有期間に長短関係なく、最高税率の約35%が課税されます。

まとめ

ここまで、MS法人が不動産業務をする理由や実施のポイントについて解説してきました。
MS法人による不動産業務は、院長の現状や事業承継の計画、クリニックのキャッシュフローなどを考慮し、タイミング良く実施しましょう。
もちろん、実施する際には数々の注意点があること、さまざまな費用がかかることも忘れてはいけません。


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