【2021年版】医療用機器等の特別償却制度について解説します


クリニック経営において、設備購入の際には公的制度の利用が欠かせません。
しかし、このような制度について、多忙などが原因でうまく活用できずにいる医師の方もいます。
ここからは、多忙な開業医でもすぐに利用できる、医療用機器等の“特別償却制度”について解説します。

目次

医療用機器等の特別償却制度の概要

医療用機器等の特別償却制度とは、青色申告をしているクリニックが対象となる、設備等を購入したことで特別償却が可能になる制度をいいます。
急に“特別償却”と言われても、ピンとこない方もいるかと思いますが、こちらは対象となる設備を購入した際、投資額の一定割合を損金として算入できる税制度の考え方です。
高額な購入費をそのまま計上してしまうと、当然税負担は大きくなってしまいます。
ある程度収益が出ていて、支払えるのであれば問題ありませんが、開業したばかりの医師にとっては死活問題です。
その上、税負担が大きい状況のまま開業しても、経営は成り立たない可能性が高いです。
つまり、医療用機器等の特別償却制度は、資金繰りの緩和や投下資本の早期回収を促す意味でも、重要な制度だということです。
ちなみに、特別償却率に関しては、以下の通り対象資産ごとに異なります。

・高額な医療機器の場合…12%
・医師や医療従事者の働き方改革推進の場合…15%
・地域医療実現の構想…8%

割合の数値を見ると効果が小さいと感じてしまいますが、長年経営をしている開業医からすると大きな数値だと考えることができます。
また、本制度は定期的に見直しがされているため、利用時の対象期間には注意してください。
現在は、2021年4月1日から2023年3月31日までの2年間が対象になります。
まだ制度は終了しないため、今後の経営の動向を踏まえて検討することをおすすめします。
もちろん、美容クリニックにおいてもこちらの制度は利用することができるため、今後開業を検討している方は、必要な知識として頭に入れておきましょう。

特別償却を採用する局面について

クリニックが特別償却を採用する局面とメリットは、主に以下の通りです。

・翌期以降の業績が悪くなると予想される場合⇒減価償却を前倒しで費用化することで、将来の負担を軽減できる
・当期の納税額をできる限り抑えたい場合⇒資金繰り等の関係で当期の納税額を抑えるのに有効
・赤字決算が連続すると予想される場合⇒翌期も赤字決算の場合は、繰り越した税額控除が無駄になってしまうため、特別償却により繰越欠損金を作る方が、将来の黒字決算に備える観点で有効

各対象資産における特別償却制度の詳細

先ほど、医療用機器等の特別償却制度には、以下の3つの対象資産があることについて触れました。

・高額な医療機器
・医師や医療従事者の働き方改革推進
・地域医療実現の構想

次は、これらの対象資産における特別償却制度の内容について、もう少し詳しく見ていきたいと思います。

高額な医療機器の特別償却制度

こちらは、一定の医療機器(500万円以上)を取得等した場合に、取得価額の12%の特別償却ができるという制度です。
対象機器の具体的な品目は、厚生労働省の告示で定められています。
また、全身用CT・MRIで一定のものに関しては、効率的な配置促進のため一定の要件をクリアすることについて、これまで病院のみが都道府県の確認を得ることが必要とされてきました。
しかし、2021年4月の改正により、クリニック(診療所)についても、都道府県の確認を得ることが必要となっています。

医師や医療従事者の働き方改革推進の特別償却制度

こちらは、正確には“医師およびその他の医療従事者の労働時間短縮に資する機器等の特別償却制度”と呼ばれるものです。
具体的には、医師の働き方改革を進め、医師の健康を確保し、なおかつ地域における安全で高品質の医療を提供するため、医師や医療従事者の勤務時間短縮に資する一定の機器等について、取得価額の15%の特別償却ができる制度をいいます。
対象となる機器等は、取得価額が30万円以上の器具や備品(医療用機器も含む)、またはソフトウェアであり、“勤務時間短縮用設備等”に当てはまるものです。
ちなみに、勤務時間短縮用設備等に当てはまるものは非常に多く、以下の類型に示されていないものであっても、従来の製品より3%以上の効率化が認められる等、一定の要件をクリアしていれば、当制度の対象になります。
ここでいう“従来の製品より3%以上の効率化が認められる”とは、勤務時間短縮用設備等のメーカーまたは販売会社が、パンフレットや仕様書において医師等医療従事者の労働時間短縮につながるような性能として、従来の製品より3%以上の効率化を謳っていることを指しています。

・類型1…労働時間管理の省略化、充実に資する勤務時間短縮用設備等(ICカード、勤怠管理ソフトウェア等)
・類型2…医師の行う作業の省略化に資する勤務時間短縮用設備等(AIによる音声認識ソフトウェア、画像診断装置、ベッドサイドモニター等)
・類型3…医師の診断行為を補助または代行する勤務時間短縮用設備等(手術支援ロボット手術ユニット、コンピュータ診断支援装置等)
・類型4:遠隔医療を可能とする勤務時間短縮用設備等(遠隔診療システム、遠隔画像診断迅速病理検査システム等)
・類型5…チーム医療の推進等に資する勤務時間短縮用設備等(院内搬送用ロボット、通信機能付きバイタルサイン測定機器等)

地域医療実現の構想の特別償却制度

こちらは、正確には“地域医療構想実現のための病床再編等の促進に向けた特別償却制度”と呼ばれる制度です。
名前の通り、地域医療構想の実現のため、地域医療構想調整会議において提出、確認された医療機関ごとの役割および医療機能ごとの病床数に関する具体的対応方針に基づく病床再編等により、取得または建設をした病院用または診療所用の建物、その附属設備について、取得価額の8%の特別償却ができるというものです。
ちなみに、“地域医療”とは、病院などの医療機関での治療やケアの枠組みにとらわれず、地域住民が安心して暮らすことができるよう、地域住民の健康を支える医療体制のことをいいます。
医師やその他の医療従事者が主体となり、地域住民に対して疾病の予防や健康維持、増進のための活動を行います。
現在では、地域包括ケアシステムに基づき、在宅療養や地域に住む高齢者、障害者への支援活動、妊婦への保険指導や相談、子育て支援なども行われています。

医療用機器等の特別償却制度の注意点

開業医にとって助かる医療用機器等の特別償却制度ですが、利用時には注意点があります。
それは、リース品や中古品は対象にならず、厚生労働大臣が指定した物でなければならないということです。
制度上、対象となるのは“新品”であるため、全ての販売品に適用される訳ではありません。
また、制度は全ての開業医のメリットになるとも言えません。
今後数年間の経営状況によっては、あえて利用しない方が経営にプラスになることもあります。
利用すべきかどうか迷ったときには、税理士に相談し、経営にプラスになるかどうかを判断してもらうことをおすすめします。

まとめ

ここまで、医療用機器等の特別償却制度について解説しました。
まとめると、当制度は対象となる機器や設備を購入することで、それにかかった金額を特別償却できる制度です。
購入した初年度の税制面で有利に働くため、クリニックの経営を考える上では知らなければなりません。
しかし、必ずしも経営にプラスになるとは言えないため、メリット・デメリットを踏まえた上で利用を検討してください。


この記事に関するお問合わせ

    お名前 *

    メールアドレス *

    メールアドレス(確認用) *

    お問合せ内容 *