美容クリニックにおける医師や看護師の派遣に関するルール


昨今の深刻な人手不足を解消するため、早急に従業員を補填したいという美容クリニックは多いかと思います。
このような場合の選択肢に“派遣”が挙げられますが、果たして美容クリニックにおいて、医師や看護師の派遣は認められているのでしょうか?
ここからは、こちらの点を中心に解説したいと思います。

目次

医師や看護師の派遣は法律で禁止されている

結論からいうと、美容クリニックにおける医師や看護師の派遣は、原則労働派遣法という法律で禁止されています。
具体的には、医師や看護師、准看護師や薬剤師など、医療関連業務に従事する方は、すべて派遣による業務ができません。
理由としては、医療という業種が人命に関わるものであることが挙げられます。
美容クリニックで行われる医療行為は、医師や看護師、薬剤師など、各分野のプロフェッショナルが連携し、十分なコミュニケーションを図った上で遂行しなければいけません。
しかし、その中に派遣された医師や看護師が入ることで、十分な連携やコミュニケーションが取れず、適切な医療が提供できない可能性があります。
また、医師に関しては、美容クリニックにおいて指揮命令者となることもあり、そのような責任のある人物を派遣医師が務めるというのは、現実的に難しいと言えます。
ちなみに、前述した以外でいうと、以下の医療従事者に関しても、法律によって派遣が禁止されています。

・歯科医師
・保健師
・助産師
・栄養士
・放射線技師
・歯科衛生士
・歯科技工士
・臨床検査技師
・理学療法士
・作業療法士
・視能訓練士
・臨床工学技士
・義肢装具士
・言語聴覚士
・救命救急士 など

医師や看護師の派遣が認められるケース

前述の通り、医師や看護師の派遣は法律で禁止されていますが、例外的に認められるケースもあります。
以下に該当する場合は違法にはならないため、美容クリニックにおける上層部の方は覚えておきましょう。

・紹介予定派遣である場合
・産休、育休、介護休業の代替業務である場合
・特定地域や病院、美容クリニック以外での医療業務である場合

紹介予定派遣である場合

紹介予定派遣とは、最長6ヶ月の派遣期間終了後、本人と派遣先企業双方合意のもとに、社員となる働き方をいいます。
つまり、最初から社員になることを前提に派遣する場合は、医師や看護師が対象であっても認められるということです。
ちなみに、美容クリニック側がミスマッチな人材だと判断する場合は、派遣期間終了後、必ずしも正社員として雇用する必要はありません。
また、派遣される側である医師や看護師が、「想像していたのと業務内容が違った」といったことが理由で、派遣期間の満了をもっての契約終了を希望する場合もあります。

産休、育休、介護休業の代替業務である場合

美容クリニックにおいて、産休や育休、介護休業を取る医師がいる場合、その代わりに業務を行う人物に関しては、派遣医師や派遣看護師でも務めることが可能です。
特に看護師は、女性の割合が非常に多い職業の1つであるがゆえに、結婚や出産という人生のビッグイベントを機に、職場を離れるケースがよく見られます。
近年は女性の社会進出、産休や育休制度の拡充も進み、出産を経て元の勤務先に復帰する看護師も増加しつつありますが、その間の労働力不足は大きな課題となっています。
また、介護が必要な家族がいて、どうしても一時的に看護師として勤務するのが難しくなる方もいます。
このような背景から、特例として産休や育休、介護の代替派遣は法律で認められています。

特定地域や病院、美容クリニック以外での医療業務である場合

離島や厚生労働省によって定められた特定地域での医療業務に関しては、派遣された医師や看護師が行っても構いません。
また、看護師の派遣については、病院や美容クリニック以外で医療業務を行う場合、例外として認められています。
具体的には、特別養護老人ホームや有料老人ホーム、身体障害者療護施設など、福祉施設内にある診療所への派遣です。
実際、派遣会社が取り扱う求人情報の多くは、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、デイサービスなどの就業先がメインとなっています。

コロナ感染拡大に伴い医師、看護師の派遣は増加する可能性あり

こちらは、主に美容クリニックではなく、一般病院に言えることですが、政府によって2022年1月に見直された新型コロナウイルスの基本的対処方針では、今後医師や看護師の派遣が増加する可能性が示されています。
具体的には、各都道府県が策定した計画で、医療が逼迫した際に全国の約2,000施設から医師や看護師をそれぞれ約3,000人派遣できるようにし、人材確保や配置の調整を一元的に担う体制を整えるとしています。
コロナの感染拡大時、病床や医療施設をスムーズに稼働させることが狙いで、従来の派遣とは若干意味合いが異なりますが、全国で派遣医師、派遣看護師が活躍する機会はほぼ確実に増加すると言って良いでしょう。

美容クリニックが医師や看護師の派遣でやってはいけないこと

美容クリニックが医師や看護師を派遣で補填する際には、たとえ紹介予定派遣や産休、育休などの代替派遣であったとしても、以下に該当しないように注意しなければいけません。

・無許可の派遣会社からの派遣就業
・面接や書類選考などの選考行為
・3年以上同じ職場で勤務させる

無許可の派遣会社からの派遣就業

派遣業は、厚生労働大臣の許可を得た事業者しか営むことができません。
そのため、無許可で営業している派遣会社は当然罰せられますし、そのような派遣会社から医師や看護師を派遣就業させた美容クリニックも、責任を取ることになります。
具体的には、違法行為によって派遣医師、派遣看護師が失業しないよう、改正派遣法にある労働契約申込みなし制度に基づき、その派遣医師、派遣看護師の所属する派遣会社における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込をしたものとみなします。
つまり、責任を持って派遣医師、派遣看護師を直接雇用しなければいけないということです。

面接や書類選考などの選考行為

派遣医師や派遣看護師はあくまで、派遣会社の従業員として美容クリニックに就業するものです。
そのため、派遣先である美容クリニックが直接面接や書類選考などの選考行為を行うことは禁止されています。
もし、こちらの行為を行ってしまったら、美容クリニックは職業安定法第5章64条に基づき、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられるため、注意してください。

3年以上同じ職場で勤務させる

派遣で医師や従業員を補填する美容クリニックは、同一の派遣従業員を同一の職場で3年以上勤務させてはいけません。
こちらは、労働派遣法で定められているルールです。
もし、美容クリニックがこちらのルールに違反してしまったら、無許可の派遣会社から就業させてしまった場合と同じく、責任を持って派遣医師、派遣看護師を直接雇用しなければいけません。
ちなみに、“同じ職場”の定義についてですが、こちらはシフト管理や仕事の配分を担当する人物(師長など)が同じかどうかです。
派遣先が同じでも、別のフロアなどシフト管理者が異なる場合は、異なる職場とみなされます。

まとめ

クリニックにおいて、人材不足は見逃せない問題であり、特に医師が不足すると、適切なチーム医療の提供は非常に難しくなります。
ただし、医師や看護師が不足しているからといって、派遣で簡単に補填できるわけではありません。
よって、普段から少しでも離職者や欠員が出にくい環境を作ることは、クリニックの至上命令だと言えます。


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