クリニックの院長先生が現役を退き、M&Aに踏み切る場合には、買い手企業に自院を選んでもらうための工夫が必要です。
また、買い手企業は買収するクリニックを見極めるために、“デューデリジェンス”を行ったり、“営業権”をチェックしたりします。
ここからは、デューデリジェンスと営業権の概要について解説します。
目次
デューデリジェンスの概要
デューデリジェンスとは、企業の経営状況や財務状況などをチェックすることをいいます。
主にM&Aや組織再編を行う際に実施され、買い手企業がこちらを実施する目的には、収集対象となるクリニックの経営環境や事業内容の事前調査、財務状況などの分析、買収するクリニックの正確な経営の実態、事業の運営方法についての把握が挙げられます。
具体的には、以下のような種類があります。
・人事デューデリジェンス
・環境デューデリジェンス
・事業デューデリジェンス
・財務デューデリジェンス
人事デューデリジェンス
クリニックのM&Aで実施されるデューデリジェンスには、まず人事デューデリジェンスが挙げられます。
こちらは、人事考課、昇進制度や報酬体系、退職制度など、クリニックにおける人材面でのコストやリスクを洗い出し、その後運営や人事制度の統合などを行う上でのポイントを調査することをいいます。
また、役員が担う事業に対するウエイトが大きいクリニックであればあるほど、買い手企業にとって人事デューデリジェンスは大事な調査となります。
環境デューデリジェンス
クリニックのM&Aで実施されるデューデリジェンスには、環境デューデリジェンスも挙げられます。
こちらは、クリニックが保有する不動産の建物環境リスク、土地環境リスクなど、各種環境問題を調査することをいいます。
不動産デューデリジェンスと呼ばれることもあります。
具体的には、買い手企業によって対象クリニックの不動産の分析、権利関係に関する調査、鑑定評価などが行われます。
事業デューデリジェンス
クリニックのM&Aで行われるデューデリジェンスには、事業デューデリジェンスも挙げられます。
こちらは、買収対象となるクリニックが、市場においてどのようなポジションにあるのか、またはM&Aを実施することで、どのようなシナジー効果が生まれるのかといった調査を指しています。
ちなみに、シナジー効果とは、複数の企業が連携することによって生み出される相乗効果のことをいいます。
財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスも、クリニックのM&Aで実施されるデューデリジェンスの1つです。
クリニックの資産状況、財務的な取引の状況などに関する調査で、具体的には土地や株式をどれくらい持っているのか、債権はどれくらいあるのか、従業員に対する賞与、退職金などの状況はどうなっているのかについて、買い手企業がリサーチします。
営業権の概要
営業権(営業権価格)とは、そのクリニックにおける利益を上げる力のことをいいます。
のれんやブランドと呼ばれることもあります。
例えば、同じような規模、経営年数のクリニックが2つあった場合、患者さんには「有名な薬局が提供するサービスの方が安心できる」という心理が働きます。
つまり、クリニックが有名であればあるほど、他の薬局に比べて営業権は優れているということです。
また、クリニックのM&Aにおける買い手企業は、当然営業権に優れているクリニックを買収したいと考えます。
営業権の算出方法
クリニックの営業権は、売上総利益から物件の賃料、人件費などを差し引いた営業利益から、今後の伸びしろやリスクなどを考慮して、今後5年間の経営状況を予測した上で算出されます。
また、営業権は大体営業利益の3~5年分が相場とされています。
例えば、月に70万円の営業利益を出しているクリニックであれば、2,500~4,200万円程度です。
M&Aを考えている院長先生は現時点での営業権を把握しておこう
今すぐ現役を退く気がない場合でも、今後の選択肢としてクリニックのM&Aが頭に浮かんでいるのであれば、院長先生は現時点での営業権を把握しておきましょう。
なぜなら、現時点での営業権を把握し、今後それが上昇するか下落するかをシミュレーションすることで、いつまでに譲渡すべきかを明確にできるからです。
また、営業権を事前にシミュレーションすれば、院長先生が想定していたよりも低いということに気づく可能性もあります。
もちろん、現時点で営業権が優れていなくても、あまり良い状況でないことが理解できれば、今後のM&Aに向けて努力するためのモチベーションとなります。
まとめ
ここまで、クリニックのM&Aにおいて重要なデューデリジェンス、営業権について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
M&Aは、経営難や後継者不足に苦しむ院長先生が選びがちな選択肢ですが、あまりにもクリニックの財務状況や経営状況が悪かったり、知名度が低かったりする場合、なかなか買い手企業は見つかりません。
そのため、院長先生は引退の時期を見定め、ある程度時間をかけてクリニックの評価を高めておく必要があります。