現役引退を考える開業医の中には、自身の子に院長の座を譲り、クリニックのサポートに回ったり、別の道に進んだりすることを考える方もいます。
しかし、親子間で行われるクリニックの事業承継は、トラブルが発生しやすいと言われています。
今回は、主なトラブルのパターンを中心に解説したいと思います。
目次
クリニックの親子間での事業承継におけるトラブルのパターン5選
クリニックにおいて、開業医の子が従業員として勤務し、その後院長先生になるという事業承継のケースは、もっとも一般的です。
ただし、こちらのケースにおいては、以下のようなトラブルが発生する可能性があります。
・価値観、経営方針の違いによる摩擦
・事業承継後も親に経営権がある
・従業員の離職増加
・患者さんの信頼喪失
・事業承継直後のコスト増大
価値観、経営方針の違いによる摩擦
親子間でクリニックの事業承継が行われる場合、親子の価値観、経営方針の違いにより、両者に摩擦が生まれることも珍しくありません。
最悪の場合、クリニックを承継するはずだった子がそれを放棄し、開業医が途方に暮れてしまうということも考えられます。
第三者への事業承継の場合、ある程度院長先生の方が力関係は強かったり、M&Aとしての売買契約を介在していたりするため、ある意味ビジネスライクに話ができますが、対価の発生しない親子間では、両者ともに感情的になりやすい傾向にあります。
また、医療に対する最新の知見を持ち、クリニックで勤務してきた子にとって、親の診療スタイルに古さや物足りなさを感じるのは、致し方ないことかもしれません。
事業承継後も親に経営権がある
親子間で行われるクリニックの事業承継では、事業承継が完了した後も、親に経営権が残り続けるというトラブルも起こりやすいです。
開業医が現役を退き、子に院長先生の座を譲った後は、本来サポート役に徹するべきであり、経営方針などに口を出すことは好ましくありません。
しかし、実際は開業医が事務長として残り、予算などを管理しているケースや、新院長である子の設備投資、新たな医療の導入などに反対するケースなどは多く見られます。
このような状況になると、子は「責任だけ押し付けられて、自分では何も決められない」と不満やストレスを抱くことになってしまうため、注意が必要です。
従業員の離職増加
クリニックで行われる親子間の事業承継では、院長先生が親から子に変わってすぐ、診療スタイルを一新するというケースが度々見られます。
もちろん、新たな院長先生が決定した取り組みであれば、実践すること自体は間違いではないのですが、こちらは徐々に段階を踏んで行うべきです。
次々に最新のシステムや機材を導入するなど、あまりにも急激な変化を起こしてしまうと、古参従業員は新しい業務になかなか慣れることができません。
また、このような状況が続くことにより、新体制に嫌気がさし、結果的に離職する従業員が増加することも考えられます。
事業承継を行ったクリニックにおいて、古参従業員は非常に頼りになる存在であるため、できる限り手放さないような計画的なシステム移行が求められます。
患者さんの信頼喪失
親子間で行われるクリニックの事業承継では、そのクリニックにおける既存の患者さんからの信頼を失うことも考えられます。
例えば、院長先生が変更になることについて、事前の説明が不足している場合、患者さんは困惑する可能性が高いです。
そのため、事業承継を行う開業医は、「私は引退しますが、同じように病気を診てくれる若い先生が来てくれます」ということを、実際引退する前に、患者さんにしっかり説明しなければいけません。
このときには、院内の掲示物や配布物なども積極的に活用すべきです。
また、後継者となる子がクリニック内で研修を行う場合は、できる限り多くの患者さんに挨拶を行い、今後院長先生になることについて説明することも重要です。
事業承継後のコスト増大
院長先生という立場を退こうとする開業医の中には、自身の体力やモチベーションの維持に限界を感じ、早急に事業承継の段取りを進めようとする方もいます。
また、このような開業医の中には、クリニックの現状をしっかり把握しておらず、自身が引退した後のクリニックに関しても無関心な方がいますが、事業承継においてこういった考え方は好ましくありません。
自身の引退を第一に考え、せわしなく事業承継を進めてしまうと、クリニックの建物や設備の老朽化に気付かず、事業承継直後に新院長である子が多大なコストを負担しなければいけなくなることもあります。
もちろん、開業医のノウハウを十分に伝えないことにより、新院長である子が、このような状況の対応方法を間違えてしまうことも考えられます。
まとめ
ここまで、クリニックの親子間での事業承継におけるトラブルについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
親子間でトラブルが発生してしまうと、上司と部下という関係だけでなく、親族としての関係も崩れてしまう可能性があります。
また、従業員にかかる迷惑や負担も大きくなるため、親子だからこそしっかりと双方意見を尊重し、慎重に事業承継を進めていく必要があります。