クリニックの開業医の中には、自身の引退に合わせて、事業承継を行わず、そのままクリニックを廃業する方もいます。
また、この場合の手続きは、医療法人のクリニックなのか、個人で経営するクリニックなのかによって変わってきます。
今回は、こちらの手続きの違いを中心に解説したいと思います。
目次
医療法人のクリニックを廃業する際の手続き
医療法人のクリニックを廃業する場合、ただ単にクリニックの経営を終了させるだけではなく、医療法に則った手続きを踏む必要があります。
医療法人は、解散する理由によって提出書類、手続きが変わってくるため、この機会にぜひ覚えておきましょう。
ちなみに、医療法人の解散理由には、以下のものが挙げられます。
・定款をもって定めた解散事由の発生
・目的たる業務の成功の不能
・社員総会の決議
・他の医療法人との合併
・社員の欠亡
・破産手続き開始の決定
・設立認可の取り消し
解散認可申請が必要なケース
目的たる業務の成功の不能とは、その医療法人が主たる目的としている事業について、成功する見込みがなくなり、医療法人の存在意義がなくなってしまったような状態を指しています。
また、社員総会の決議は、総社員の3/4以上の承諾による決議があった場合に、自主的な判断で医療法人を解散できるというものです。
医療法人のクリニックがこれらいずれかに該当する場合、解散認可申請が必要となり、以下のような書類を用意、提出しなければいけません。
・解散の理由書
・解散を決議した社員総会または理事会および評議委員会の議事録
・財産目録および貸借対照表
・残余財産の処分方法を記載した書類
・解散および清算人就任を登記した登記事項証明書の原本
解散届の提出が必要なケース
医療法人の解散事由は、定款で自由に定めることが可能です。
例えば、定款において、「令和4年12月31日をもって解散する」「社員の数が10名未満となったときには解散する」などと定められている場合、その条件になった場合には解散手続きを行います。
また、社員の欠亡とは、その医療法人における社員が一人もいなくなることを指しています。
“欠乏”とは異なるため、混同しないように注意してください。
ちなみに、これらいずれかに医療法人が該当する場合は、解散届を提出しなければいけませんが、そのときに必要な書類は以下の通りです。
・医療法人解散届
・解散を決議した社員総会または理事会および評議委員会の議事録
・財産目録および貸借対照表
・残余財産の処分方法を記載した書類
・解散および清算人就任を登記した登記事項証明書の原本
解散認可申請、解散届の提出後に必要な手続き
医療法人の解散認可申請、解散届の提出後には、以下のような手続きを行う必要があります。
・解散の登記
・清算人就任の登記
・医療法人解散登記完了届
・清算人の就任登記届の届出
・清算手続き
・清算結了の登記
・清算結了届の届出
・出資持分の払い戻しの対応 など
個人のクリニックを廃業する際の手続き
個人のクリニックを廃業する場合は、医療法人とは違い、管轄の保健所へ診療所廃止届などを申請することになります。
具体的な提出書類と申請先は以下の通りです。
・診療所廃止届、エックス線廃止届(保健所)
・保険医療機関廃止届(地方厚生局)
・麻薬使用者業務廃止届(各都道府県)
・生活保護法指定医療機関廃止届(福祉事務所)
・退会届(医師会)
・個人事業廃止届(税務署、各都道府県税事務所)
・資格喪失届(医師国民健康保険組合)
・適用事業所全喪届、被保険者資格喪失届(年金事務所)
・確定保険料申告書(労働基準監督署)
従業員、患者様への対応について
クリニックを廃業する際には、行政への申請手続きだけでなく、かかりつけの患者様や、雇用している従業員に対する対応も忘れてはいけません。
継続的に通院している患者様に対しては、前もって閉院時期を通知し、希望があれば転院のための診療情報提供書や、カルテの写しなどを提供する必要があります。
また、従業員に対しては、会社都合での退職を促し(退職予告の実施、退職金に関する規定がある場合には遵守する)、社会保健の廃止や、次の就職先の紹介、斡旋なども行わなければいけません。
廃業後の保管物について
クリニックが廃業しても、院長先生である開業医には、引き続き各種記録保管の義務が課せられます。
例えば、患者様のカルテは過去5年間、レントゲンフィルムなどは診療終了から3年間保管しなければいけません。
また、民法に基づき、患者様とのトラブルがあった際の損害賠償請求は10年間有効であるため、そこまで保管するケースもあります。
保管場所を確保し、廃業に伴う重要書類のほか、カルテなどの診療記録は厳重に保管しましょう。
まとめ
ここまで、医療法人のクリニックと個人で経営するクリニックにおける、廃業時の手続きの違いについて解説してきました。
必要な書類や申請先などは異なるものの、どちらのケースでも時間や手間がかかることには変わりありません。
そのため、場合によっては顧問税理士や、その他の専門家に委託する方がスムーズに完了します。