クリニック経営と収益不動産の節税対策

クリニックの経営では、ほとんどのケースで、勤務医のときよりも多額の資金を扱っていくことになるでしょう。
経営が軌道にのれば、医師個人の所得もどんどん増えていきます。
ところが、所得が増えているにもかかわらず、意外と手元にキャッシュが残らないという状況が起こりえます。
クリニックの経営者が資産を残していくためには、少しの工夫が必要なのです。

多額の税金を納税しなければならない開業医

そもそもとして、開業医のみなさんは、ご自身が毎年いくら税金を納めているかご存知でしょうか。日本は累進課税ですので、収入が高い医師の方であれば、一般的な所得のサラリーマンの方よりも、税金を多く納めていることになります。

概算ではありますが、3000万円ほどの収入がある医師の方をモデルとして考えてみましょう。子どものいない夫婦2人の場合を想定すると、配偶者控除や社会保険控除、生命保険料控除などを差し引いたとしても、おおよそ800万円以上の所得税と、約300万円弱の住民税が課税されることになります。
3000万円の年収がありながら、1/3以上にあたる、約1100万円もの税負担があるのです。

節税対策を講じなければ、資産形成に影響があることが、おわかりいただけたのではないでしょうか。

収益不動産は開業医におすすめの節税対策

多額の税金を納めるのは、所得が多いためです。したがって、所得を減らせば節税になるといえます。とはいえ、本当に収入を減らすわけではありません。「赤字をつくる」方策を取ることをおすすめします。

もっとも、費用対効果が得られるのは「収益不動産」の活用でしょう。空室リスクの低い都心の単身者向けワンルーム物件などをローンを組んで購入し、家賃収入のインカムゲインを得ながら不動産にかかる経費を計上して赤字をつくり、所得税と住民税の節税につなげていく方法です。

ローンの金利に登記費用、火災保険料や管理組合に納める管理費・修繕積立金など、購入や維持管理にかかわるコストは、ほとんどが経費として認められます。物件を内見した際の交通費や宿泊費も経費になりえます。
ワンルームなら2000万円程度から物件がありますから、超低金利の現在ならば、頭金なしのフルローンも一考の余地があります。また、建物にかかわる設備の減価償却費も経費となるため、数百万円単位で見かけの所得が削減できます。

仮に家賃収入を得つづけている場合でも、当面は家賃収入の総額よりも経費の総額のほうが大きいはずなので、数百万円単位の節税効果が見込めます。本来税金として納めるはずだったキャッシュが手元に残るので、このインパクトは大きいはずです。

資産形成にも役立つ、収益不動産

投資家の間で有名な言葉に「ひとつのカゴに卵を盛るな」という格言があります。これは、資産を一極集中させることのリスクについて言及したものです。 資産というと、どうしてもキャッシュで保有してしまう方が多いのですが、今後インフレが懸念される日本では、それは大きなリスクになりえます。インフレになれば日本円の価値は下がります。「不動産」として資産の分散を行っておくことは、リスク分散となり資産形成上、とても有利に働きます。

また多くの収益不動産は、空室さえなければ、長期的に安定した利益をもたらしてくれます。つまり、節税しながらリスク分散もでき、収益をもたらす資産が不動産なのです。還付された税金をさらなる投資に回すことも可能ですし、インカムゲインの効率をアップするために、ローンの繰上げ返済をしていくことも考えられます。不動産への投資によって、選択肢が広がっていくのです。また、将来的には相続の資産として活用することもできます。

メディカルサービス法人の活用で、
さらに節税効果を発揮

クリニックを開業している方の場合、対象の収益不動産の所有者を個人ではなく、メディカルサービス法人とすることで、さらなる節税効果が見込めます。個人の所得と同様に、MS法人の利益を損益通算で減らすことが可能です。個人に課税される所得税と住民税の税率よりも、法人税の税率のほうが少ないので、必然的に節税につながります。

MS法人で保有している土地・建物をクリニックを運営する医療法人に賃貸するというスキームも有効な手段でしょう。いずれにしろ、収益不動産を上手く活用することができれば、クリニック経営上のメリットも生まれてくるのです。
なお、相続人を代表者としたMS法人の所有不動産とすれば、相続人が被相続人から受け継いだ資産にかかる、多額の相続税を節税することにもつながります。

ローンを抱えてしまう収益不動産の購入は、一見するとリスクがあるように見えます。しかし、税制を把握したうえでしっかり活用すれば、多くのメリットをもたらしてくれるのです。
収益不動産を最大限有効活用するためには、出口戦略を考えておくことも求められますが、売却もしやすい流動性のある物件ならば、どのようなライフスタイル・家族構成だとしても、状況に応じた対策が取れるでしょう。