MS法人の人材派遣業務におけるメリットやポイントについて


MS法人では、クリニックでは実施できないさまざまな業務を行うことができます。
その業務の1つが、今回解説する“人材派遣業務”です。
では、クリニックがMS法人で人材派遣業務を行うメリットやポイントには、一体どのようなことが挙げられるのでしょうか?
詳しく解説したいと思います。

目次

人材派遣業務の概要

人材派遣業務は、労働派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保および派遣労働者の保護等に関する法律)により、“自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることを業として行うこと」と定義されています。
簡単にいうと、労働者が雇用契約を結ぶ事業所と、実際に勤務する事業所は別であることを意味しています。
MS法人が人材派遣業務を行う場合、労働者と雇用契約を結ぶのはMS法人ですが、勤務させるのはクリニックであり、指揮命令もクリニックの現場で行うことになります。
また、給与の支払いや福利厚生に関しては、勤務先であるクリニックではなく、人材派遣業務を行うMS法人が管理します。
具体的には、MS法人が、派遣従業員の稼働時間あたりの時間単価としての派遣料金を支払います。
ちなみに、人材派遣には契約期間の上限が存在します。
そのため、MS法人からクリニックへ人材を送り込む場合でも、同じ現場の場合は原則3年間しか勤務させることができません。

MS法人で人材派遣業務を行う3つのメリット

MS法人で人材派遣業務を行うメリットには、主に以下の3つのことが挙げられます。

・人材確保の手間が省ける
・人材確保のコストを削減できる
・常勤医をコア業務に集中させることができる

人材確保の手間が省ける

MS法人で人材派遣業務を行うことによって、クリニックにおける人材確保の手間がかからなくなります。
一般的なクリニックでは、クリニック自体が求人募集を行い、そこから面接、採用、教育へと進んでいきます。
一方、MS法人で人材派遣業務を行えば、クリニック自体が求人募集、面接を行う必要はなくなります。
つまり、すぐにクリニックの現場に派遣従業員を送り込み、教育に移ることができるということです。

人材確保のコストを削減できる

MS法人で人材派遣業務を行うことは、クリニックにおける人材確保のコスト削減にも繋がります。
クリニックが単独で人材確保を行う場合、求人誌や求人サイトなどへの掲載費などがかかります。
これらはクリニックの経費として計上できますが、MS法人で人材派遣業務を行う場合の業務委託料も、同じようにクリニックの経費として計上できます。
また、業務委託料はMS法人の収入にもなるため、クリニックが単独で人材確保を行う際と比べると、実質コストを削減することができます。

常勤医をコア業務に集中させることができる

MS法人で人材派遣業務を行うことで、クリニックにおける常勤医をコア業務に集中させることができます。
クリニックにおける常勤医の中には、専門的な知識や技術が必要な業務と並行しながら、定型業務と呼ばれる比較的簡単な業務を行っている方もいます。
また、人材派遣業務によってクリニックに派遣される人材は、基本的にクリニックの現場での職務経験がある人材のため、そのような定型業務はすぐに慣れる可能性が高いです。
つまり、MS法人で人材派遣業務を行うことで、常勤医における定型業務の負担を減らし、より高度な技術が求められるコア業務に集中させることができるということです。

MS法人で人材派遣業務を行う場合に押さえておきたいポイント

クリニックがMS法人を設立し、人材派遣業務を行う場合は、以下のポイントを押さえておかなければいけません。

・許認可について
・離職後の派遣について
・消費税について

許認可について

MS法人で人材派遣業務を行う場合には、厚生労働省の許認可が必要です。
以下の4つの基準をクリアすることで、一般派遣事業許可を受けることができます。

・派遣事業が特定の企業のみ派遣を行う目的でないこと
・適切な雇用管理がされていること
・個人情報の管理を徹底していること
・派遣事業を適正に遂行できる能力があること

ここでいう“派遣事業を適正に遂行できる能力”とは、資産要件と事業所要件をクリアしていることを指しています。
資産要件の内容は以下の通りです。

・直近決算書において、基準資産が2,000万円×事業所数以上であること
・直近決算書において、現金預金が1,500万円×事業所数以上であり、負債総額の1/7以上であること

一方、事業所要件は、MS法人が人材派遣業務を行う事業所として使用できるかどうかのチェックです。
具体的には、以下の要件をすべて満たす必要があります。

・事業で使用し得る面積が20㎡以上あること
・使用目的が事務所であること(賃貸借契約書の目的と合致している)
・事業所の独立性が保たれていること(別法人が同居していない)
・個人的秘密を保持し得る構造であること(鍵付きキャビネットを設置しているなど)
・風俗営業が密集する等、事業の運営に好ましくない場所にないこと

ちなみに、MS法人が人材派遣業務を行う場合、適切な責任者を選任しなければいけません。
このとき、責任者を務める人物は、責任者としての業務に専念でき、なおかつ3年以上の労務管理経験、3年以内の派遣元責任者講習受講経験が必要となります。
未成年者や、外国人で一定の在留資格のない人物は務めることができません。

離職後の派遣について

平成24年10月に実施された労働派遣法の改正により、離職後1年の間は、離職した法人への派遣が禁止されることになりました。
このルールにより、例えばクリニックで勤務していた従業員が退職し、MS法人に転職した場合、1年間はクリニックに派遣することができません。
こちらは、離職後すぐに派遣従業員として勤務させるという方法が、不当なリストラ手段として利用されることを防ぐためのルールです。
そのため、コスト削減などの目的で、上記のような方法を取ろうとするクリニックは、1年間待たなければいけないため、注意してください。
ちなみに、1年間待つのが難しいという場合は、派遣という形態ではなく、請負の形態を取るという選択肢もあります。
つまり、MS法人からクリニックへ人材を派遣しているわけではなく、あくまでMS法人側でクリニックの業務の一部を請け負っているとする形態です。
こうすることで、法律の規制には引っ掛からない可能性があります。

消費税について

MS法人で行う人材派遣業務には、人材確保の手間やコストが省けるなどのメリットがありますが、消費税に関しては負担が大きくなる可能性があります。
MS法人にとって、クリニックから受け取る派遣料は課税売上です。
つまり、派遣料は全額課税対象になるということです。
一方、クリニック側では、MS法人に支払った派遣料が課税仕入になるものの、クリニックは一般的に課税売上割合が低いため、全額控除対象仕入税額とすることができない可能性があります。
これらの理由により、ある程度組織全体でかかる消費税が高額になってしまうことについては、事前に留意しておきましょう。

まとめ

ここまで、MS法人で人材派遣業務を行うメリットやポイントなどにについて解説しました。
MS法人活用の幅を広げたいクリニック、また効率的に人材を確保したいクリニックは、ぜひMS法人での人材派遣業務を検討しましょう。
人材派遣業務を行うには、まずMS法人で複数の人材を確保する必要がありますが、クリニックの経営と隔離された場所で行われるため、クリニックの経営自体に及ぼす影響は少ないと予想されます。


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