嘱託医に支払われる対価はどういう扱いになる?源泉徴収は?


医師にはさまざまな勤務形態がありますが、今回注目したいのは“嘱託医”です。
今後美容クリニックを開業しようとする方も、もしかするといずれこのような勤務形態の医師と関わりを持つかもしれません。
ここからは、嘱託医の概要や、支払われる対価の扱い、源泉徴収など、嘱託医に関するさまざまなことを解説します。

目次

嘱託医とは?

嘱託医(しょくたくい)とは、その施設に所属する医師ではなく、行政機関や医療機関、介護施設などから委嘱を受け、診察や治療を行う医師のことをいいます。
いわゆる“産業医”の1つで、生命保険においては、生命保険会社から委嘱されて診察や治療を施す医師を指しています。
また、嘱託医は非常勤の医師ですが、常勤医と同じように、医師免許を保有している必要があります。
ただし、嘱託医について統一された定義は、実は存在しません。
例えば、一度定年退職した後、有期契約で再雇用される医師なども、非常勤医師であるとともに、嘱託医の1つとして数えられることがあります。
つまり、美容クリニックにおいても、一度退職した医師が非常勤医師として再雇用された場合には、嘱託医が治療等を行うケースがあるということです。

嘱託医と他の医師の雇用形態の違い

先ほど、嘱託医について統一された定義は存在しないという話をしました。
しかし、嘱託という雇用形態と、他の雇用契約にはいくつかの違いがあります。
例えば、嘱託社員と契約社員は、ともに有期雇用契約の1つであるため、同じように捉えている方も多いですが、実は違います。
嘱託社員の医師は、短時間勤務や週の出勤日数が5日未満といった、非常勤を条件に契約しているのが多い一方で、契約社員の医師は、フルタイム勤務を条件に契約していることが多いです。
また、嘱託社員の医師であっても、1週間の所定労働時間が同一の事業者に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い場合、パートタイム労働法の対象となるパートとして扱われます。
ちなみに、嘱託と非常に似通っている言葉に“業務委嘱契約”というものがありますが、これらはほぼ同じ意味だと考えて問題ありません。
嘱託医の嘱託という言葉には、“頼んで任せる”という意味があります。
つまり、嘱託契約は業務を頼んで任せることが条件となっているため、雇用契約だけでなく、業務委嘱契約や請負契約、委任契約もほとんど同じ内容のものだということです。

嘱託医に支払われる対価について

行政機関や医療機関、介護施設等から嘱託医に支払われる対価については、給与として取り扱われるのが適切とされています。
こちらは、国税庁のホームページにも記載されていることであり、具体的には以下のような記述で示されています。

・個人の医師が事業者から支払いを受ける産業医としての対価は、所得税法上原則給与として取り扱う

より具体的にいうと、その診療が雇用契約に基づくものであったり、診療場所や拘束時間があらかじめ決まっていたりするケースでは、いわゆるサラリーマンと同様に給与扱いになります。
美容クリニックなどに所属していた医師が、一度退職し、再び有期契約を結ぶケースも嘱託医に該当することを考えると、こちらの考えは非常に自然だと言えます。
ちなみに、自己のクリニック等において、休日に診療を行うことにより、地方公共団体から受ける委嘱料(対価)に関しては、雇用契約に基づくものではなく、特に時間的な拘束も存在しないため、給与ではなく事業所得として取り扱うことになります。

嘱託医に支払われる対価の源泉徴収について

個人の嘱託医に支払われる対価は、雇用契約に基づくものでない場合、時間的な拘束が存在しない場合を除き、給与という扱いになります。
これにより、委嘱先の行政機関や医療機関、介護施設やその他のクリニックなどは、乙欄適用の源泉所得税を預かる形になります。
また、こちらの対価が年間50万円を超えない場合、委嘱先は税務署に支払調書を提出する必要がありません。
もちろん、給与として取り扱うため、消費税も非課税です。
ただし、年末には源泉徴収票を作成し、必ず嘱託医に手渡す必要があります。
その他、嘱託医に源泉徴収票を発行している以上、翌月10日までに納税を済ませることも忘れてはいけません。

嘱託医が法人から派遣された勤務医の場合

何度も言うように、嘱託医に支払われる対価については、給与として取り扱われます。
しかし、こちらはあくまで嘱託医が個人のケースを指していて、医療法人から派遣された勤務医の場合は、また扱いが変わってきます。
このような場合に発生する委嘱料は、最終的に医療法人の収入となるため、給与所得には該当しません。
具体的には、医療法人におけるその他の医業収入となるものであり、課税の対象にもなります。
また、嘱託医が法人から派遣された勤務医の場合、行政機関や医療機関、介護施設やその他のクリニックなどにおける所得税等の源泉徴収も当然不要です。

嘱託医として契約すべき人材のポイントについて

美容クリニックを開業しようとする方は、何らかの事情により、一度退職した医師を嘱託医として再雇用する機会があるかもしれません。
そのような場合は、以下のようなポイントをクリアしている優れた人材と再契約すべきです。

・明るく誠実
・思いやりがある
・コミュニケーション力がある
・チャレンジ意欲がある
・技術を高められる

患者さんはもちろん、美容クリニックではさまざまな人物と接する機会があるため、明るく誠実であることは嘱託医としての絶対条件です。
また、患者さんへの気配り、同僚への気遣いができたり、自身の考えをしっかりと伝え、相手の話にもきちんと耳を傾けることができたりする方も、嘱託医として再雇用すべき人材だと言えます。
その他、非常勤医師であっても、より良い医療やサービスにチャレンジする意欲がある方や、年齢を言い訳にせず技術を高められるような方も、美容クリニックにおいて大きな戦力となるでしょう。

嘱託医を雇用する場合の注意点

美容クリニックが嘱託医を雇用する場合は、前述した給与や源泉徴収などの取り扱いに注意しなければいけませんが、他にも注意点はいくつかあります。
最初に理解しておきたいポイントとしては、嘱託医の雇用契約について、期間途中に解消するのは困難だということが挙げられます。
無期雇用の医師と比べて、有期契約の嘱託医の方が雇用契約を取り消しやすいと考える方もいるかもしれませんが、実際はそうではありません。
法律上でも、美容クリニックの廃業など、やむを得ない事由がない限り、嘱託医の雇用契約を途中で解消することはできないとされています。
また、美容クリニックは、嘱託医に対する労働条件について、正規雇用の医師と比較したとき、不合理に低い労働条件を設定してはいけないとされています。
例えば、通勤手当や皆勤手当の支給格差、不支給などに関しては違法となるため、注意してください。
ちなみに、住宅手当、扶養手当といった、住居費や家族の扶養に関わる生活費の補填を目的とした手当を嘱託医に対し不支給とすることは、手当の趣旨から考え適法とされています。

まとめ

ここまで、嘱託医の概要や支払われる対価の扱い、源泉徴収に関することなどを中心に解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
美容クリニックの開業を目指す方は、どのような医師が嘱託医に該当するのか、嘱託医に対する給与や手当の支払い、源泉徴収などはどう実施すれば良いのかについて、使用者として頭に入れておくことをおすすめします。


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