医療法人は、社会医療法人と財団医療法人の2種類に大別されますが、社会医療法人はさらに出資持分あり、なしに細分化することができます。
また、出資持分の有無によって、譲渡の手続きや注意点も異なります。
今回は、それぞれどのような譲渡手続きが必要なのか、またどのような点に注意すべきなのかについて解説します。
目次
出資持分の概要
平成19年の医療法改正前に設立した出資持分のある医療法人において、医療法人に金銭等の出資を行った者が持つものを出資持分といいます。
具体的には、出資持分のある医療法人の資産に対し、出資額に応じて有する財産権を指し、定款に反するなどの事情がない限り、譲渡性が認められます。
なお、出資持分は株式等とは異なり、社員の地位と結合した概念ではありません。
出資持分のある医療法人の概要
前述の通り、出資持分のある医療法人は、平成19年の医療法改正前に設立された医療法人です。
つまり、最低でも設立から14年以上は経過している医療法人だということです。
また、こちらの医療法人は、主に以下のような特徴を持っています。
・医療法人の解散時、財産の返還を受ける権利がある
・出資者が複数の場合、医療法人の財産の返還を出資割合に応じて求める権利がある
・出資持分を相続させることができる
・相続時には相続税が発生する
平成19年の医療法改正により、出資持分のある医療法人の新規設立はできなくなりました。
ただし、既存の出資持分のある医療法人については、当分の間存続する旨の経過措置がとられていて、これらは“経過措置型医療法人”と呼ばれることもあります。
このような経過措置型医療法人は、社会医療法人の9割以上という多くのパーセンテージを占めています。
ちなみに、出資持分のある医療法人であって、社員の退社に伴う出資持分の払い戻しや医療法人の解散に伴う残余財産分配の範囲につき、払込出資額を限度とする旨を定款で定めているものを“出資額限度法人”といいます。
こちらは出資持分のある医療法人の一種ではありますが、医療法人の財産評価額や社員の出資割合に関わらず、後述する出資持分の返還請求権や残余財産分配請求権の及ぶ範囲が、当該社員が実際に出資した額そのものに限定されるという特徴を持っています。
出資持分のある医療法人における譲渡手続き
出資持分のある医療法人は、譲渡または贈与を行う場合、その旨について議事録に記録しなければいけません。
それに伴い、社員総会を開く必要もあります。
また、出資者が財産の返還を要求した場合には、その持分を買い取らなければいけませんが、買い取りにかかったコストの拠出先に関しても、記録として残しておかなければいけません。
こちらは“出資持分の返還請求権”と呼ばれるもので、出資を行った社員が退社した場合に発生するのが一般的です。
ちなみに、出資持分のある医療法人において譲渡が発生すると、セットで贈与税も発生します。
そのため、出資持分譲渡が成立した後は、あらかじめ定められた日までに申告を行い、納税する必要があります。
譲渡手続きの注意点
出資持分のある医療法人において、複数の出資者が存在する場合に、一人の出資者が財産の返還を求めてきたときには、注意しなければいけません。
例えば、医療法人の財産が8億円あり、出資者AとBがそれぞれ1/2ずつの出資割合を有しているとします。
このような場合に、Aが持分に応じた財産の返還を要求した場合、医療法人は4億円を支払う必要があります。
また、このときAには贈与税の支払い義務が生じますが、こちらの金額は莫大になる上に、現金で支払わなければいけないため、医療法人としても、要求された4億円を現金で支払わなければいけません。
どれだけ莫大な財産を持つ医療法人であっても、常に支払える金銭を数億円も保有しているとは限りませんし、もし出資者に対して支払いができないとなれば、解散を視野に入れなければいけないことも考えられます。
その他、出資持分のある医療法人における譲渡手続きの注意点としては、源泉所得税に関することも挙げられます。
出資持分の払戻額から当該出資持分に係る払込済出資額を差し引いた金額は配当所得とされるため、払い戻しを行う医療法人は、かかる配当所得の20%相当額を源泉徴収税として納付しなければいけません。
なお、出資持分のある医療法人の設立後、追加出資や出資持分の払い戻しが行われ、出資総額の増減が生じた場合には、その後における出資持分の払い戻しの際に、一部譲渡所得が生じることがあります。
出資持分のない医療法人の概要
出資持分のない医療法人は、文字通り出資持分がなく、平成19年以降に設立された、比較的新しい医療法人のことを指しています。
平成19年の医療法改正後から現在までに、社会医療法人はこちらの出資持分のない医療法人しか設立できなくなっています。
また、特徴に関しても、以下の通りそのまま出資持分のある医療法人とは真逆となります。
・医療法人の解散時に財産の返還を求める権利がない
・権利を有していないため、相続ができない
・相続時に相続税は発生しない
出資持分のない医療法人における譲渡手続き
出資持分のない医療法人を譲渡する場合、定款を変更したり、各種行政庁に届出を行ったりすることで、手続きは完了します。
持分は譲渡されることはないため、当然譲渡税も発生しません。
もちろん、持分に相当する金額の返還を求められることもありませんし、出資持分のある医療法人と比較すると、譲渡手続きは簡単だと言えます。
ただし、医療法人を手放す方が報酬を求める場合には、別途役員退職金を受け取るための契約を結んだり、相応の手続きを行ったりしなければいけません。
譲渡手続きの注意点
出資持分のない医療法人を譲渡する場合、他者へのM&Aによる売却では、出資分に相当する金額の払い戻しを請求できないため、注意してください。
また、譲渡の対価となる支払いを受けるには、譲渡成立後、退職金という形で受け取ることになりますが、こちらの金額には上限が定められています。
具体的には、以下の計算式で算出される金額であり、どれほど医療法人の財産が潤っていたとしても、上限以上の報酬を受け取ることは認められません。
・最終報酬月額×勤続年数×3=退職金
出資持分譲渡契約書について
出資持分のある医療法人を譲渡する場合、出資持分譲渡契約書というものを作成しなければいけません。
こちらは、譲渡契約が成立する際に必要なものであり、正式に契約を成立させる根拠となります。
口頭での契約を行っていたとしても、出資持分譲渡契約書が交わされていなければ、譲渡契約は無効になるため、注意してください。
また、こちらの書面を作成するにあたっては、譲渡期日を記載しなければいけないため、具体的な譲渡価格を決定するための社員総会など、その他の手続きも含めて期日までに完了させる必要があります。
ちなみに、出資持分譲渡契約書には、以下のような内容を記載しなければいけないため、覚えておきましょう。
・譲渡人
・譲受人
・医療法人名
・出資持分金額
・譲渡価格
・受渡日
・受渡条件(支払い方法等)
・契約締結日
まとめ
ここまで、出資持分の有無によって異なる医療法人の譲渡手続き、手続きの注意点について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
それぞれの手続きにおける決定的な違いは、出資持分相当の払い戻しを請求する権利があるか否かという点であり、全体的に複雑でトラブルが発生しやすいのは、出資持分のある医療法人だと言えます。