医療法人は地域において住民に医療サービスを提供していくという大きな役割をもっています。国公立・個人開業などに関わらず、医療法人は公的な性格があることから、医療法人の経営については安定・安全性が必要とされます。
出資持分ありの医療法人では、出資持分のある所有者に相続があった場合に医療法人が継続して経営ができないような事態も想定されます。例えば、持分の相続人が持分の払い戻しを放棄してしまうと、他出資者に贈与税が掛かってしまうため、他出資者から医療法人に対して持分の払い戻しの請求をされる場合があります。また、持分所有者へ相続があると持分に対する相続税の金額が大きくなるため、相続人が医療法人に対して持分の払い戻し請求をされることもあり得るのです。
これらは医療法人の存続に大きな障害となる問題です。そこで、平成26年度の税制改正で医療法人の持分に関する相続税・贈与税の「納税猶予制度」という制度ができました。
目次
○納税猶予制度とは?
平成29年9月30日までに持分あり医療法人から持分なし医療法人へ移行する場合には、移行計画を作成・提出した後に認定医療法人を受けなければなりません。そして認定を受けた日から3年以内に持分なしの医療法人へ移行します。この納税猶予制度とは、持分あり医療法人から持分なし医療法人へ完全に移行することが前提で、移行する際に持分放棄による贈与税や相続税の課税といった問題に対して納税の猶予を認めるという制度となります。
○納税猶予制度の適用を受けるための要件
この制度の適用を受けるためには、次の要件を満たす必要があるため注意が必要です。
まず、被相続人は医療法人の持分を有していること。相続人等は被相続人から相続・遺贈により、医療法人の持分を取得した人物であることが要件となります。
申告の手続きについては、相続税の申告書を期限内に提出する必要があります。なお、医療法人持分納税猶予税額と利子税の額に相当する担保を提供します。この制度の適用を受ける医療法人の持分でなくても問題ありません。
○納税猶予制度の適用を受けることができないケース
納税猶予制度には場合によって適用を受けることができないことがあります。
まず、相続を開始した時から相続税の申告期限までの間に、医療法人の持分に基づいて出資持分に応じた払戻しを受けた場合、医療法人の持分を譲渡した場合、医療法人の持分の全部もしくは一部を放棄して持分についての相続税の税額控除の受けた場合の3つのケースにおいては納税猶予制度の適用を受けることができないため注意しておきましょう。