クリニックを建築する際には、さまざまな法律のルールを遵守しなければいけません。
中でも、もっとも密接に関わってくるのが建築基準法ですが、こちらは建築・開業後のクリニックにも関係してくる法律です。
今回は、“建築基準法の12条点検”について詳しく解説したいと思います。
目次
12条点検とは?
12条点検は、建築基準法および官公法(官公庁施設の建設等に関する法律)で規定されているルールです。
建築基準法、官公法ともに12条に規定されていることから、このように呼ばれています。
具体的には、対象の建築物、昇降機、建築設備、防火設備について、損傷や腐食その他の劣化状況などの点検を義務付けるものです。
ちなみに、建築基準法と官公法はそれぞれ別の法律ですが、いずれも建物の点検に関するルールが規定されていることから、これらの法律の関係性は深いと言えます。
ただし、官公法における12条点検は、建築基準法では対象とならない小規模な施設についても対象になるため、それぞれの法律における12条点検は別物と考えるべきです。
建築基準法の12条点検における対象建築物
建築基準法における12条点検の対象となるのは、建築基準法の第6条に規定される特殊建築物です。
具体的には、以下のようなものが該当します。
・劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場その他これらに類する法令で定めるもの
・病院、診療所、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎その他これらに類する法令で定めるもの
・学校、体育館その他これらに類する法令で定めるもの
・百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェ、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場その他これらに類する法令で定めるもの
・倉庫その他これらに類する法令で定めるもの
・自動車倉庫、自動車修理工場その他これらに類する法令で定めるもの
クリニックは、当然上記の“病院、診療所、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎その他これらに類する法令で定めるもの”に含まれるため、こちらのルールを遵守しなければいけません。
ただし、患者様の収容施設があるクリニックに限ります。
建築基準法の12条点検の対象となるクリニックの規模
クリニックは、基本的に特殊建築物に該当するものですが、すべてが建築基準法における12条点検の対象になるわけではありません。
以下の規模を有するクリニックのみ、建築または開業後もルールを遵守する必要があります。
・階数5階以上かつ延べ面積1,000㎡以上で、用途に供する床面積の合計が200㎡以上
・階数3階以上かつ用途に供する床面積の合計が100㎡以上200㎡以下
建築基準法の12条点検における周期
対象のクリニックは、建物に関する12条点検を3年以内ごと、昇降機、建築設備、防火設備に関する点検を1年以内ごとに実施しなければいけません。
また、最初の点検については、建物の場合、検査済証の交付を受けた後6年以内、昇降機や建築設備、防火設備の場合、検査済証の交付後2年以内の実施が義務付けられています。
建築基準法の12条点検における対象項目
建築基準法の12条点検は、クリニックの建物、昇降機、建築設備、防火設備が対象になるという風に解説しました。
また、具体的な対象項目については、以下のものが挙げられます。
カテゴリ 対象項目
建物の敷地および構造 敷地および地盤、建築物の外部、および屋根、建築物の内部、避難施設、その他(避雷設備など)
昇降機 ロープ式エレベーター、油圧式エレベーター、エスカレーター
昇降機以外の建築設備 換気設備、排煙設備、照明装置(非常用照明)、給排水設備
防火設備 防火扉、防火シャッター、防火クロススクリーン、ドレンチャー
建物の敷地および構造については全体的に対象項目があり、対象部位がないクリニックは存在しません。
また、昇降機以外の建築設備については、法令に基づいて設けられた設備(給排水設備を除く)、防火設備については、感知器に連動して動作する防火設備が対象となります。
点検を怠るとどうなるのか?
建築基準法の12条点検における対象であるにもかかわらず、点検を怠った場合、そのクリニックは100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
こちらは、虚偽の報告を行った場合も同様です。
また、点検報告を実施する有資格者の罰則もあり、虚偽の報告をした場合は有資格者証の返納が命じられ、返納に応じない場合は30万円以下の罰金処分の対象となります。
ちなみに、過去には12条点検の対象建築物であるホテルにおいて、宿泊客の死亡事故が起き、所有者等が実刑判決になった事例もあります。
こちらのホテルでは、排煙設備の未設置によって火災の煙が充満し、宿泊客が逃げ遅れたこと、内装に使用されるベニヤ板が救助活動の妨げとなったことなどが、被害を大きくしたとみられています。
まとめ
ここまで、クリニックが遵守すべき建築基準法の12条点検について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
クリニックの建物や昇降機、その他の設備は、建築時にのみ基準をクリアしていれば良いわけではありません。
患者様や従業員の命を守るため、長く愛されるクリニックを経営するためには、開業後の細やかな点検も必要不可欠です。