勤務医の特定支出控除、プライベートカンパニー設立について


開業医とは違い、勤務医の収入は給与という扱いになります。
また、給与の中で節税をするとなると、できることは限られます。
その中でも“特定支出控除”と“プライベートカンパニー”の設立は、勤務医ができる節税対策の基本になるでしょう。
今回は、これらの概要、メリット、注意点などについて解説したいと思います。

目次

特定支出控除の概要

給与所得者が個人で特定の支出に伴う費用を負担し、その合計が一定額を超えた場合に、超過分を給与控除額に加算できる制度を特定支出控除といいます。
特定支出として許可される出費は所得金額から差し引くことができるため、勤務医の節税対策としてよく利用されています。
一般的に、節税対策は開業医が行うものであり、白衣などは経費として所得控除の対象になりますが、給与所得者である勤務医の白衣は対象外だと思われがちです。
しかし、勤務医は経費に代わって特定支出控除を利用することができるため、条件が合うことを確認できれば、同じような節税が可能になります。

特定支出控除のメリット

特定支出控除のメリットは、なんといっても広範囲の項目が特定支出として認められるという点です。
具体的には、以下の8つの項目です。

・通勤にかかる費用
・引っ越し費用
・単身赴任者の帰宅にかかる費用
・研修にかかる費用
・資格を得るためにかかる費用
・業務に関する図書の購入費用
・業務に関する衣類の購入費用
・業務に関する交際費用

さらに、令和2年以降は、勤務する場所を離れて仕事をする場合に必要な旅行でかかる、職務上の旅費も特定支出に含まれるようになりました。
また、特定支出控除は1987年から存在していましたが、当時は給与所得控除額加算できる特定支出が、給与所得控除額の総額を超えた部分であったため、利用する方はほぼいませんでした。
しかし、現在はこちらの基準は大幅に改正されていて、給与所得控除額の半分を超えた部分に関しては、対象として認められるようになっています。
つまり、非常に利用しやすい制度であるところも、特定支出控除のメリットだということです。

プライベートカンパニーの概要

個人の収益や資産を管理するために設立する会社をプライベートカンパニーといいます。
登記書類を作成し、法務局で登記手続きを行うことで設立できます。
個人事業主との違いは法人化されているかどうかであり、プライベートカンパニーは法人化されていることにより、個人事業主とは税率や経費に含められる範囲が変わってきます。
また、勤務医のプライベートカンパニー設立が節税につながる理由は主に3つです。
1つ目の理由としては、適用される税率が違うということが挙げられます。
個人の場合、所得税と住民税の合計が最大で55%かかりますが、法人税は約30%であるため、収入が多い勤務医はプライベートカンパニーを設立した方が節税できる可能性があります。
2つ目の理由には、経費計上可能な範囲が異なることが挙げられます。
法人化することにより、水道光熱費や宿泊費、車の購入費用など、さまざまな支出を経費として計上することが可能です。
3つ目の理由としては、相続税対策ができることが挙げられます。
不動産や有価証券といった財産は、プライベートカンパニーを設立し、法人名義にすることによって手続きが簡単になり、相続税率を引き下げることができます。

プライベートカンパニー設立のメリット

勤務医によるプライベートカンパニーの設立には、前述の通りさまざまな節税効果があります。
その他のメリットとしては、法人保険を活用できることが挙げられます。
プライベートカンパニーを設立し、個人で支払っている保険を一部法人名義にすることができれば、その一部を経費として計上しながら保障を強化し、個人の財布から出ていく保険料を減らすことが可能です。
また、プライベートカンパニーを設立することで、財務諸表というこれまで静的な数字でしか見えなかったものが、自身の行動と数字を照らし合わせることにより、動的に見えるようになるというのもメリットです。

特定支出控除、プライベートカンパニー設立の注意点

特定支出控除、プライベートカンパニーの設立は、前述の通り勤務医にとって非常に節税効果の高い方法です。
しかし、以下のような注意点もあるため、利用する際や実施する際には注意してください。

・確定申告や法人税の発生
・イニシャルコスト、ランニングコストの発生
・どちらも自力での対応が難しい

確定申告や法人税の発生

まず、勤務医が特定支出控除を利用する場合、年末調整をするだけでは節税対策になりません。
自分自身で確定申告をする必要があるのです。
年末調整では、各種控除を踏まえた上で所得税の調整がされますが、基本的に日常生活を営む上で必要な項目の控除が対象になるため、仕事上でかかった費用に関しては、年末調整の範囲の対象外だと考えます。
このような理由から、必要であれば、自分で手続きをしなければいけないということです。
また、プライベートカンパニーを設立した場合は、法人税が発生することになります。
規模に関わらず、法人を設立するとなると、その範囲内で経費対応ができるため、経費問題を簡単にクリアできるでしょう。
しかし、大きな節税効果を得ることができる分、給与以外に発生する税金もあります。
得ることができるメリットもありますが、想定されるコストもそれなりにあることを理解しておきましょう。

イニシャルコスト、ランニングコストの発生

こちらはプライベートカンパニーの設立にのみ言えることですが、法人を設立するには、登記費用や資本金などのイニシャルコストがかかります。
設立費用の安い形態であっても、数十万円程度はかかるものと見積もっておきましょう。
また、プライベートカンパニーを設立すれば、法人税や税理士の顧問料といったランニングコストも発生します。
これらの費用により、さらに年間で数十万円のコスト増となるため、忘れてはいけません。

どちらも自力での対応が難しい

さらに、勤務医の節税対策としてピックアップしている2つの方法は、個人の対応が難しいという特徴があります。
例えば、どちらの場合でも節税に影響するのは経費です。
しかし、出費の内訳によっては、経費扱いが認められない場合もあります。
十分な知識を持たずに書類を作成してしまうと、後々税務調査の対象になり兼ねません。
そのようなことになるのを回避するためにも、2つの方法を利用する場合は、必ず税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
もちろん、顧問契約をする形を取っても構いません。
一見すると、どちらの方法も魅力的ですが、これらは専門知識があって初めてメリットを得ることができるものです。
下手に素人が手を指してしまうと、痛い目に遭ってしまいかねません。
このようなリスクを考えると、専門家に依頼する重要性が理解できるかと思います。
ちなみに、当然のことではありますが、税理士等の専門家に依頼する場合は、依頼料が発生します。
それでも、その費用でリスク回避ができるのであれば、決して高い費用ではないと言えます。

まとめ

特定支出控除とプライベートカンパニー設立は、どちらの勤務医の節税対策として有意義なものであるのは間違いありません。
ただし、正しく活用するためには、それなりの知識が必要です。
活用すると影響が大きい方法だからこそ、医師自身もしっかりと勉強して、上手く活用できるようにするのが理想です。
また、確定申告時の複雑な計算や、法人税等の支払いを考えると、相談できる相手がいるに越したことはありません。


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