大学病院など夜勤のある職場で看護師の仕事をしていると、妊娠がわかったときに夜勤を続けられるか不安に感じるかもしれません。妊娠中の夜勤は負担になるのでしょうか。
この記事では、妊娠中の夜勤や関連する法律、夜勤免除の申請方法について紹介します。
妊娠した看護師は夜勤をしないほうがいい理由
看護師の妊娠中の夜勤は、法律で明確に禁止されているわけではありません。しかし、妊娠中は無理をせずに、可能であれば夜勤は避けて仕事をするのが望ましいです。
ここでは、妊娠中に夜勤をしない方が良い3つの理由を紹介します。
母体や妊娠そのものに悪影響を与える可能性がある
妊娠中の看護師が夜勤を避けた方が良い理由は、母体や妊娠自体に悪い影響を及ぼす可能性があるためです。妊娠と夜勤の関係性については次のふたつの論文を取り上げます。
夜勤と流産の関連性についての研究
ひとつは、デンマークで行われた流産と夜勤の因果関係を探る研究です。デンマークの国立病院に勤務する従業員のデータと病院への入院(流産)のデータとをリンクし、22,744人の妊婦を特定し研究が行われました。
妊娠4~22週の女性を対象に、前週に2回以上夜勤をした女性としなかった女性を比較したところ、夜勤をしなかった女性に比べ、夜勤をした女性の方が1.32倍、流産リスクが高まることがわかりました。
さらに、研究によって妊娠3~21週における夜勤の通算回数が多いほど、流産のリスクが増えることが明らかさにされています。
出典:Night work and miscarriage: a Danish nationwide register-based cohort study|NIH
労働時間や夜勤の回数と妊娠の関係についての研究
続いての研究は、妊娠中の女性の働き方と母体や胎児への影響を追ったものです。日本の15地域で、自記式質問と医療記録によって研究が行われました。
結果として、働いている妊婦はそうでない妊婦と比べて、切迫流産が1.47倍、切迫早産が1.63倍にリスクが向上していることがわかりました。さらに、週36時間以上働く妊婦は、鉗子分娩や吸引分娩リスクが1.34倍に高まることも明らかになっています。
妊娠中の夜勤の影響も無視できません。研究によって、夜勤を含め週36時間以上働く妊婦は妊娠高血圧症候群のリスクが2.02倍、さらに夜勤含め週46時間以上働く妊婦は週数と比べ赤ちゃんが小さいリスクが1.32倍あることがわかりました。
妊娠中の仕事や夜勤が母体や胎児にさまざまなリスクを与えることがわかります。
規則正しい生活がしにくい
妊婦の心身の健康を良好に保つには、規則正しい生活を送ることが大切です。しかし、夜勤があるとどうしても生活のリズムが不規則になってしまいます。妊娠中に規則正しい生活を送りづらいのも夜勤を避けた方が良い理由です。
妊娠中の母親の生活リズムが乳児の睡眠覚醒リズムに影響して、妊婦が早く寝ないと乳児が夜間覚醒しやすくなるといった研究結果もあります。母体の健康はもちろん、生まれたばかりの子どもへの影響を考えるなら夜勤は控えた方が良いです。
出典:「妊娠末期から産後の母親の生活リズムと乳児の睡眠覚醒リズムとの関連」(小児保健研究)
夜勤は人員が少なく、負担が大きい場合がある
夜勤は少人数体制で対応という病院も多く、看護師ひとりにかかる負担は大きくなりがちです。人が少ないと、体調が悪いときに代わってもらえないなどの不安もあります。
夜勤中は人に頼れない可能性もあることを考えると、できるだけ妊娠中は避けた方が無難です。
妊娠と夜勤に関する法律
先述したように妊婦の夜勤を直接的に規制するような法律はありませんが、関連する法律はあります。それは、男女雇用機会均等法と労働基準法です。
それぞれ、妊婦と夜勤に対してどのような法の定めがあるのか見ていきましょう。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法第9条第3項には、妊婦の深夜労働について不利益取扱いの禁止が定められています。
妊娠した労働者が深夜業務の制限を請求したとき、パートタイム労働者へ労働契約の変更を強要するなどの不利益な取り扱いをしてはならないという規定です。
また、同法13条においては、妊婦が指導事項を守れるよう、勤務時間の短縮や休業など必要な措置を講じるとの定めもあります。
いずれの条項も、妊婦であることを理由に不当な扱いを受けないよう、または安心して働けるように雇用主の行動を制限または促進するための法律です。
労働基準法
労働基準法においては、産前や産後の母体を守るための措置がいくつか講じられています。中でも夜勤に関連が深いのが、同法の第66条第3項です。妊婦が請求したときに、使用者は深夜労働させてはならないという規定があります。
つまり、妊婦である看護師自身が自ら請求した場合は、夜勤を避けられるということです。
看護師の夜勤免除の申請方法
法律をベースに考えれば、妊婦である看護師自らが勤務先に請求すると夜勤を免除してもらえます。この際、特別な書類はなくても請求は可能です。
しかし、職場によってはなかなか理解を得られにくいといった状況もあります。夜勤の免除申請をするにあたってどのような準備をしておくと良いのか、ふたつのポイントを見ていきましょう。
母性健康管理指導事項連絡カードを活用する
母性健康管理指導事項連絡カードは、主治医などの指導事項を勤務先に明確に伝えるためのものです。法律の定めるところにより、事業主には指導事項に沿った必要な措置を取ることが義務付けられています。
母性健康管理指導事項連絡カードは母子手帳についているため、夜勤免除を申請するときは、健康診査などをする際に主治医に必要事項を記入してもらいましょう。記入してもらうのに、2000円程度の負担が必要です。
申請者は、カードの指導事項を守るための措置申請書に必要事項を記入して勤務先にて提出します。
主治医に診断書を書いてもらう
状況によっては、母性健康管理指導事項連絡カードを利用しにくいケースもあります。カードの利用が難しく、職場の理解も得られにくい場合は、主治医に診断書を書いてもらうのも方法のひとつです。
カードと同じように、診断書を受け取った事業主は必要な措置を講じなければなりません。診断書取得のための費用は、3000円程度です。
看護師が夜勤以外の業務について注意したいこと
妊娠中はできるだけ夜勤を控えた働き方をした方が良いものの、夜勤以外にも気を付けておきたいことがあります。
ここでは、妊娠中の看護師が注意しておきたいポイントを見ていきましょう。
できない仕事はしっかり伝えておく
まず、できない業務は事前に伝えておくことです。例えば、妊婦には重量物を扱う力仕事、頻繁に行われる階段の上り下り、連続した歩行は負担が大きくなる可能性があります。
危険な薬品を扱う業務や、レントゲン業務などにも注意が必要です。妊婦や胎児にとって悪影響を及ぼしかねない仕事は避けるよう、あらかじめ周りに伝えて協力を得ておきましょう。
こまめに体を休めるようにする
妊娠中は体が疲れやすくつらいと感じるときもあるかもしれません。辛いときは無理せずにこまめに休憩を取りましょう。
また、妊娠中に立ちっぱなしだとお腹が張りやすくなります。基本的には座ることで張りは自然に収まるため、お腹の張りを感じたら無理せず座るようにすると良いでしょう。
看護師が妊娠を考えるなら妊娠・子育て中も働きやすい職場選びが重要
妊婦になったら夜勤を免除してもらうなど必要な対策を取ることも大切ですが、職場によってはなかなか理解を得にくいところもあります。
看護師が妊娠を考えるなら、以下のように妊娠・子育て中も働きやすい職場を選ぶと良いでしょう。
・夜勤がない、もしくは勤務形態の選択肢がいくつかある
・家に近い
・産休・育休の取得実績がある
子育てに理解のある職場であれば、シフトで配慮してもらえる可能性があります。
そのほか、妊娠中の看護師が働く上で注意すべき点については、以下の記事で紹介しています。
「妊娠中の看護師の働き方とは|報告のタイミングや働く上での注意点」
まとめ
母体や胎児への影響を考えると、妊娠中の看護師の夜勤はできるだけ避けたいところです。妊娠を希望しているときは、夜勤を免除してもらうためにどのような対策が必要か、事前に確認しておきましょう。
夜勤のある勤務先に勤め続けるのではなく、夜勤のない職場へ転職するのもひとつの手です。今後のライフスタイルも考えながら、自分にとって理想の職場を探してみると良いでしょう。