医療機器等の“特別償却制度”は、対象設備取得の初年度、普通償却費(定率・定額)に加え特別償却費を追加で償却できる制度であり、こちらの特別償却割合を前倒しして減価償却できるというものです。
ここからは、こちらの制度における詳細や、2022年版の改正点を中心に解説したいと思います。
目次
医療機器等の特別償却制度の詳細
医療機器等の特別償却制度では、対象資産が高度な医療機器である場合、こちらを取得等したとき、取得価額の12%の特別償却が可能です。
対象となる医療機器は、全身用MRI、全身用CT(4列未満除く)であり、対象者は青色申告書を提出する個人、法人です。
また、適用されるには以下のような書類を県へ提出しなければいけません。
・全身用MRI、CTの利用回数を示す書類
・共同利用を行う連携先医療機関との合意を示す書類
医療機器等の特別償却制度における改正点
2022年版の医療機器等の特別償却制度における改正点は、なんといっても対象期間の延長です。
当制度の対象期間は、2021年4月1日~2023年3月31日であり、高度な医療機器には価格が500万円以上のものが該当します。
また、高度な医療機器以外だけでなく、医師および医療従事者の働き方改革推進、地域医療構想の実現も特別控除の対象となります。
具体的には、医療勤務環境改善支援センターの助言による器具、備品、ソフトウェアの購入(30万円以上)は15%、クリニック等の建物およびその附属設備は8%の特別償却が認められています。
その他、2022年版の医療機器等の特別償却制度は、都道府県の確認の有無に関しても改正された点があります。
これまで、全身用MRIやCTで一定のものについては、効率的な配置促進のため、一定の要件を満たすことにつき、病院のみが都道府県の確認を得なければいけませんでしたが、現在はクリニック(診療所)についても、都道府県の確認を得ることが必要となっています。
医療機器等の特別償却制度における申請
医療機器等の特別償却制度を利用するクリニックは、“医療機器等の特別償却制度の詳細”で触れた2つの書類以外にも、以下の提出書類を用意しなければいけません。
・確認願
・整備する機器の仕様等を示す書類(パンフレット等)
・地域医療構想調査会議への説明資料
また、これらの書類は各都道府県の健康福祉部に提出します。
提出期限は、地域医療構想調査会議への説明を要しない場合は随時であり、説明を要する場合は、年末の提出期限について、事前に各都道府県に対して相談して確認します。
地域医療構想調整会議での説明は、都道府県事務局からまとめて行われますが、個別医療機関の具体的対応方針に関する質疑応答、意見が出る可能性が高いため、クリニックの開業医は原則として参加を求められています。
ちなみに、医療機器等の特別償却制度における申請手続きの一般的な流れは、以下のようになっています。
・手続き方法の把握
・対象機器の購入(更新の検討)
・確認願の提出
・調整会議への参加、説明
・対象機器の購入(更新)の準備
・対象機器の購入(更新)
・医療機器に関する届出等
・確認証交付申請書の提出
・確認証の受領
医療機器等の特別償却制度を利用するメリット
クリニックが医療機器等の特別償却制度を利用するメリットは、やはり設備投資初年度にかかる税負担を軽減し、初期のキャッシュフローを改善させることができる点です。
特別償却は、将来の減価償却費を先取りするものであり、償却期間トータルでは、償却費の累計は通常の特別償却を行わないケースと同じになります。
また、特別償却によって経費を増やし、利益を抑えることにより、銀行の評価が良くなるというのもメリットです。
銀行は、財務の安全性という観点から、動かない資産(固定資産)よりも、動く資産(預貯金など)の比率が高いクリニックを評価します。
つまり、固定資産を早期に費用化し、固定資産比率を下げることによって、流動比率が高くなり、銀行がクリニックを評価する指標に安全性が生まれるということです。
その他、減価償却費を早めに費用化することで、万が一翌期以降に経営が苦しくなった場合における将来の費用負担を軽減できるのも、医療機器等の特別償却制度を利用するメリットの1つです。
医療機器等の特別償却制度を利用するデメリット
クリニックが医療機器等の特別償却制度を利用するデメリットとしては、購入した年度でしか適用できないことが挙げられます。
残念ながら、特別償却は過去にさかのぼって適用を受けることができません。
そのため、例えば当期が黒字決算だからといって、前期に購入した固定資産を当期に特別償却するようなことはできないのです。
まとめ
ここまで、医療機器等の特別償却制度における詳細、2022年度版の改正点、利用することのメリットなどに触れてきましたが、いかがでしたでしょうか?
こちらの制度は、クリニックにとって初年度のキャッシュフローを大きく改善できるものであり、要件を満たす場合には利用しない手はありません。
しかし、定期的に内容が改正される制度であるため、適宜詳細はチェックしておくべきです。